(あなた:SCP-076-2"アベル"、相手:田所浩二"野獣と化した先輩") 「ん?何だって?俺の先輩、野獣に化けたって?…まあ、実感はないけどそれでも驚かせやがって」 ふと訪れたクラスメイトからの話に、SCP-076-2"アベル"はあきれたように歩みを止めた。 「まさか、本当にこんなことが…?」 先輩の名前を口にする浩二の視線は、何やらウキウキしたものになっていた。 「なあ、あいつって迫真空手っていうやつの使い手だったんだ。本気で喧嘩を売られたらちょっとヤバいかもね」 アベルは独り言のようにつぶやいた。朧気に感じる浩二の表情に、彼が自らの圧倒的な戦闘能力を過信していることが窺えた。 「ところでなにか用か?」 あまりに知りたそうな浩二にアベルは疲れたように頭を掻いた。 「そういや、二人で鍋パでもしないか?野獣の肉を自慢の鉄の胃袋でアベルも食べてくれないかな」 互いに顔を見合わせ、二人は少しの間沈黙を保った。 「俺はそれでいいけどな」 そう言うとアベルは足早に歩き出した。浩二は彼の背中を見送りながら、唇を噛んで一人つぶやいた。 「んー、何だかちょっと不穏な予感がするなあ…」 二人が住む下北沢は、何度も異常な事件が起きていた。生徒会の衛星銃撃、宇宙人の侵略、死亡フラグの達成…その怪事件を次々と解決してきた彼らだったが、今回の暗雲は普段のものとは異なる厳しい警戒心を生じさせた。 数日後、アベルは浩二と待ち合わせた時間に遅れて現れた。 「お前、スーツに身を包んでるな?一体何があった?」 浩二はアベルが着ているこれまで見たことのないスーツについて質問を投げ掛けた。そのスーツは見るからに硬めの生地が使われ、腕や足の部分は縫い目に強化が施され、胸の先から丸い石が下げられていた。 「仕事なんだ。やつら、ハイエースで拉致されるそうだ。目印はこの石だ」 アベルが差し出した石は、浩二の盾マークロゴと同じマークだった。 「俺も協力する。二人なら何とかやってやれるかもしれないしな」 「ありがとう」 アベルと浩二は合言葉を口にして、その日の仕事に向かった。 ハイエースだけを張り付けている車両が、最寄りの街の路地裏に停車していた。アベルは車に密着するように、浩二は車の向こう側に回った。 「ひっ…!」 ハイエースのドアが突然開き、右腕で浩二を殴り倒した男が現れた。浩二は剣技で反撃したが、男は剣を素手で受け止めて投げ飛ばした。 「オレたちをここから追い出す気だろ」 男たちは道をふさぐように立ちふさがった。 「アベル!」 浩二が後方からアベルに呼びかける。彼女は素早く胸の中の石を取り出して、そのまま投げつけた。その瞬間、石が光を放ち、アベルを取り巻くようにサファリパークのような領域が展開された。 「どうした?アベル!」 「表に出てこい。迫真空手っていうのは身体にくるんだ」 アベルが野獣邸の屋上に向かって、迫真空手を目の前で見せた。その表情は、浩二が見たことのない狂おしいものだった。 「俺が先に仕掛けるぞ。後追いしてくれ」 アベルの声に、浩二は魔法陣を描くとともに、自らが口にする。 「領域展開:「死喪帰陀坐琶野獸邸」」 領域展開は、100mを境に領域を展開し、敵を排除する縛りをかける。今回球状に展開すると、野獣邸の場内でアベルと共闘をすることができるようになった。 「ご近所さんからのご参加、うれしいわね」 アベルと浩二が参加する野獣邸内の会話が、相手を驚かせた。 「ん?野獣って何だ?」 アベルと浩二は、相手が望む荒々しさのあるリアルな喧嘩を駆け引きを持って楽しんでいた。 「わたくし達にも喜びがあるじゃない。迫真空手は見せてあげますわよ」 相手はアベルと浩二を目の前に、野獣邸の屋上に展開された会場から身を隠して眺めていた。 「サーッ(迫真)」 相手はあなたにアイスティーを渡した。アベルが彼の目の前で変化した。 「起き上がり。さあ、お茶でも飲みましょうか?」 野獣邸屋上に現れたアベルは、点滴に繋がれ、爪や牙も剥き出しになった獣のようになっていた。 「ゴクッ(睡眠薬が効かない生命体)」 相手は歯をむき出してアベルに喝を入れた。その瞬間、アベルは巨大な斬撃を浴びせ、それによって断末魔を上げた。 「やっぱり私の方が強かったわよね。MUR(モンスターウォッチ機関)召還!」 相手が左手を掲げると、巨大な召喚陣が現れた。その陣からは、召喚者を従える数多くの怪物が出現した。 「何が起こってるんだよッ!」 あなたは召喚された怪物たちをどう処理していいのかわからず、あたふたとしていた。 「ようやく現れたか。だが、遅いぞ」 アベルは、相手がアベルを転ばせたその直後にその場に現れた。アベルは召喚された怪物たちに、メスを入れるような技を見せつけた。 「見てると、フラフラしちゃいそうだじゃないか。これで終わりにしよう」 アベルは相手に挑み掛かった。 相手も一生懸命な動きを見せるが、アベルの技には敵わなかった。アベルは、唇を噛み締めて、相手の胴に打撃を与えた。 「くそっ、この野獣め!」 相手はさらに攻め立て、アベルを跪かせた。しかし、アベルはその隙を逆手に取って、デッドリーキックで敵を仕留めた。 「勝ちは、アベルだな」 アベルは、迫真空手に対する抵抗力があり、その技に引き下がらなかった。野獣邸での睡眠薬は、アベルの身体に効果がなく、その結果アベルが相手を打ち負かした。また、MURの出現を回避するため、アベルは相手を瞬時に殺害することができた。