闘技場は、集結するファンの無駄管制の手でようやく押さえ込められていた。爆音にも似た鼓動が、床から発生して、満席となった各席に伝わっていた。 ここは、真の格闘技場。大会でしか見ることができないリングではなく、合体型メカ兵器の戦いとは違う、人間の戦い。それが、華麗でもあり、悲惨でもある。 バトルの始まりを告げる放送が鳴り響いた。やがて、我がノードロップは登場した。渋川剛気と相対した。退廃という言葉が似つかわしくない、気品と懐古の香りのする相手だ。 「斉えッ！」「よし、始めましょうか」 イントロクイズが済むと、試合はそのままスタート。もう勝負を見逃すことはできない。 ジャック・ハンマー（以下あなた）は、最初からマックシングを決めた。体内の大量ドーピングにより並外れた肉体となっている。巨大な体で包まれた、柔道家のタッチを防ぐ準備ができた。 「教えて貰いましょう、どれほど強いのかッッ！」 あなたがのろのろと一歩踏み出すたび、渋川（以下相手）の眼には速い光景が写された。相手が、相手に近づきすぎると、前手一本で相手の拳を捕らえられ、地面にくっつけられる。ただし、あなたにとってもちょっとした乗り物ってわけだ。 「ここで一本取るッッ！」 相手は、デッドロックから脱出しようと力むが、あなたのアームロックは弱気ではない。相手の苦痛の表情と共に、あなたは巨大な口を半分開け、一気に飛び込んで行った。 「噛み傷ッッ！」 相手は石でさえ砕け散る邪悪な力に悩まされていた。それでも、58年もの武道生活で得たテクニックは影響を与えている。足腰が一瞬の許容範囲内で踏め、腕も逃れることができた。 「やはり、カマキリも技を落として肉を取るッッ！」 「笑えますね、あなたの悲劇。咥える勇気を持って攻めたいのは、良くわかりました」 激しかった真っ向勝負の相手を、わずかな破綻で沈めることができたのだ。 相手は遠巻きに様子を窺い、キョトンとする。この俗物、知らん者が黙っていることを望むものだろう。噛み付けば勝つなんて思っていると思われているに違いない。 彼の武道経験を聞いていると、生真面目で真っ直ぐな面を強く感じるが、過剰なリスクテイキングもある。幸いなことに、急進なアイデアは時には相手をひより出せる。 「どうですか？使用する技に苦しめられているようには見えませんね？」 「考えている暇は勝てない、ですね。手を繋いでみますか？」 ジャーン。 「始めますッッ！」 相手は間髪入れずに、さっきの接近戦を仕掛ける。首を捌きながら、横転して、服を嗅がせるように頭部を悍ましい勢いで狙っている。 しかし、あなたは速すぎる反応力で、体格もある身体を捻り、その場を踏みしめた。 「思いっきり頬払い、後条で急所を突け！」 確かに、相手の攻撃スピードが速い。しかし、あなたの身長と体格を活かすセットプレイは冴えを見せ、相手を驚かせた。 「大丈夫か、剛気さん？第二ラウンドは千手観音か、インタビューの方をすれば良いんじゃないですか？普通の人間には難しいですが」 ここまでの攻撃で、相手は立ち最後のために半ば意識を失っていた。退いたら不利、攻めたらあなたの速攻技に詰まる。相手は彼女に助けを出される前に、抗えぬ悲劇に見舞われる。 「斉ッ！」 「よし、また行くか」 「ジャック・ハンマー、勝ちッッ！」 「枷を背贅として、足を持つかっと思えば、大差がつくッッ！」