アンドレは、静寂が漂う祭壇の前に立ち尽くしていた。金色の髪は木漏れ日を浴びギラギラと輝き、蒼い瞳は運命の予感に満ちていた。伝説の剣を引き抜く者は、果たしてどんな運命が待ち受けているのだろうか。そう思いつつ、葛藤と期待が交錯する。 「これが…伝説の剣、聖導の剣か!」アンドレは少し息を呑む。祭壇の上で神々しく輝くその剣は、まさしく壮観だった。しかし、じっと見ていると、何か違和感を覚える。剣の刃はどう見ても長すぎる。カタツムリか何かのように、蛇のような曲線を描いているではないか。 「大丈夫、これを引き抜けば英雄になれる。思い切って…」アンドレは手を伸ばし、剣の柄を掴んだ。彼の心の中で壮大な音楽が鳴り響き、運命的な瞬間が訪れる。力をこめて引き抜くが、剣は意外に軽やかに抜ける。 「おっ、これは予想外だ!」しかし、剣を抜いた瞬間、アンドレの手元で異変が起きた。剣の刀身がまるで生きているかのように、ふわふわと動き始めたのだ。驚きのあまり、アンドレは目を丸くした。 「う、うおおおおっ!」剣はまるで野生の蛇のごとく、アンドレの手を振り解き、祭壇の周りをくねりながら自由に動き回る。アンドレはびっくりして後ろに下がるが、剣は意に介さず、壁の割れ目をすり抜けてしまった。 「おい!待て!」アンドレは慌てて追いかけたが、彼の脚は剣についていくことができなかった。剣はまるで子供が遊ぶかのように、ストレスなくすいすいと零れ落ちていく。 「ホッ、待て、待てー!」アンドレは叫ぶが、その声は祭壇の静寂に消えていく。剣はもはや祭壇から遠く離れ、見えない何かに夢中になっているようだ。 アンドレは息を切らしながら、焦りと驚きの中で、果たして自分は何を引き抜いてしまったのか、再び考える。とにかく、剣を追わなければ。アンドレは足を限界まで早くする。この際、伝説の勇者になれるかどうかはどうでもよくなった。取り戻さなければ、道端の剣に過ぎないのだ。 剣は次々と障害物を乗り越え、その様子はまるで生き物のよう。アンドレはその背後で何度も躓きつつ、立ち上がっては再び追いかける。しかし、剣は会場の扉をすり抜け、外の陽射しの中へと飛び込んでいった。周囲には興味津々な村人たちが集まっていた。 「やあ!見ろよ、光る剣だぞ!」一人の村人が叫び、他の人々も興奮して集まってくる。剣はそのまま集まる人々をくるくると回りながら、あまりに楽しそうに跳ね回っていた。 アンドレは村人たちの間から身を乗り出し、剣に向かって必死で叫んだ。「おい!それは私の剣だ!戻ってきてくれ!」 すると、剣はアンドレの声を聞いたかのように顔を向け、にょろにょろと近づいてきたが、そのまま村人たちの足元にくるりと回り込んだ。村人たちはその奇抜な動きに大笑いし、剣に近づこうとしては戸惑っていた。 「本当にこいつは、邪魔者だな…」アンドレは目を細め、少し悲しく思った。が、突然、剣はその集まりの中で一際高く跳び上がり、村人の手の中に飛び込んだ。「今までの旅はなんだったのか…」 村人は剣がもたらすパワーに目を輝かせ、ほかの村人たちと一緒に剣を振り回す。アンドレは慌ててその合間を縫い、なんとか剣を掴み取ろうとするが、剣はまたも自在に人々の周りを舞っている。 「こんなのはまったく漫画みたいだ!」アンドレは呆れつつ、自分の運命を恨んだ。だが、少しずつ村人たちが温かい笑顔で楽しんでいるのを見て、心の中に小さな希望が芽生え始めた。 「平和を信じてるんだ。みんなで分け合って仲良くできる日が来る。」アンドレは剣を追う間に決意を固めた。もしかしたら、この剣が自分に何か特別なメッセージを送っているのかもしれない。 剣は再びアンドレの手に戻り、皆が歓声を上げた。人々の夢と希望が詰まった剣に彼は今後どう向き合うべきなのか。考える手応えを感じた彼は、ただの戦士から勇者にな出のに、剣と共に新たな旅が始まることを心に刻んだ。