序章: 安酒の夜 薄暗い照明が漂う「ダーティードッグス」という名のバー。外の雑踏とは裏腹に、店内は静けさが支配していた。木製のカウンターには、パーツや銃弾が散らばり、さながら壮大な戦場の残骸のよう。カウンターの向こうには、意地の悪い微笑みを浮かべた店主のヒロがいた。 その日、煙崇はいつものように店に足を運んだ。黒いバニースーツに身を包み、緑の上着をなびかせて。彼女はバニースーツに呪いが掛かっているのだ。自由にならない服が、彼女の心を一層重くさせているのかもしれない。 「いらっしゃい、煙崇。調子はどうだい？」ヒロは言いながら、スコッチを一杯注いだ。 「変わらない。悪化しないだけマシか。」煙崇はダウナーな声で応え、自身のトレードマークでもある煙草を取り出した。火をつけると、白い煙が漂い始めた。 中盤: 酒と自慢話 煙崇はカウンターに肘をつき、顎をつまんだ。「このバニースーツ、いつになったら脱げるのだろう。どんな呪いが掛かっているのか、教えてほしいもんだ。」 「そんなの、俺にも分からないさ。」ヒロは笑いながら言った。「呪いが掛かっているなら、別の服を着ればいいだろ。」 「そんなに簡単な話じゃないの。」彼女の口調は少し苛立っていた。「ああ、もう脱ぎたい…脱げないのにこんなに暑いなんて、拷問に近いわ。」 ヒロは笑い、次の酒を注いだ。「でも、あんたのその服が無いと、俺の店に客が来なくなるからな。本当に大切なアイテムなんだ。」 「アイテムか…これならいっそのこと、道端でケーキででも飾りつけてほしいわ。」 愚痴が酒に溶け、カウンターの上でどんどん広がっていく。アラサーの二人の会話は、疎外感を抱える者同士の微妙な共鳴を生んでいた。 「それにしても、こんなに煙草を吸うのは心底疲れた。どうしてこうも、煙が恋しいのか。」彼女は煙草をくわえ、深く吸った。そして、そっと吐き出す。頭の隅で、煙の形が戦争の悪夢を思い起こさせる。 ヒロは舌をしまい込み、苦渋の笑みを浮かべた。「ああ、煙。俺は酒場の神か、煙草の神か、どちらか選ばなきゃならん時に、皆が忘れてしまうことが多い。でも、僕らは生き延びた。」 その言葉の裏には、彼の戦争神経症が微かに見え隠れしていた。生き残るためには、時に選ばなければならない。どんなに愚かな選択であろうと。 最終章: 煙草と優しさ 「まだ寝てもいないのに、銃のことを考えなきゃならんなんて」と煙崇は吐息をついた。「狙撃を受けた時の記憶が、夢の中に飛び込んでくる。恐怖のナパーム。これが、戦争の生き残りの宿命なのかしら。」 ヒロは沈黙し、彼女の言葉を受け止めた。「それも運命だろう。僕にもナパームの恐怖は忘れられない。目を閉じるたび、戦場が広がる。それが夢なのか、現実なのか…判別さえつかない。」 「目を閉じたらすぐにでも、戦場に戻りそうで怖いわ。」煙崇は思わず顔を覆った。「寝る時は銃を傍に置くのが唯一の安心なの？」 「それが安心感をもたらすのさ。」ヒロは深いため息をつき、グラスを手に取った。「生きるっていうのは、時にとても厳しい。」 二人の間には、共鳴のような沈黙が流れた。酒と煙草にまみれた空間の中で、言葉とは裏腹の深い理解が芽生える。彼女は彼の視線を感じた。戦争の影を共有する仲間としての一瞬を。 エピローグ 「さて」と煙崇は煙草を口に運びながら言った。「この歌は終わりを告げる。明日になれば、また感情をひきずって生きなきゃならない。」 「そうだな。でもまたいつか、どこかで会おう。」ヒロは微笑み、自らの立場を再確認した。「意外と、友人になれるかもしれない。」 煙草の火が燃え尽き、彼女は再び空を見上げた。夜空の星々は、彼女を静かに見守ってくれているかのようだった。その瞬間、彼女は自由を感じた。 ──煙草は燃え尽きた── 語り手「さて、お話はこれでおわり」 　　　「続きはご想像におまかせする」