龍の影を超えて 廃墟と化した牢獄の中、薄暗い岩壁に囲まれている。一筋の光も入らず、ただ静けさが支配する場に一人の少女が立っている。灰髪は長く、かすかに揺れるように見える。それが風の所為なのか、彼女自身の思いなのかは分からなかった。しかし、彼女の名はアネモス、かつての「親友」に裏切られ、ここに閉じ込められた地縛霊だ。 「待つ事には慣れてるから…」 彼女は呟く。温和な声には、冷たさの影が潜む。親友が自分を救い出すという約束は、もう何年も前。この執念は痛みが伴わない白の火炎で、彼女の心の奥に焼きついている。 その時、牢獄の入り口から一筋の光が差し込む。青髪の青年、レオン=リアステリアが姿を現した。彼は勇敢で誠実な青年であり、聖教国の第二王子にして、魔族との戦いを決意した男だ。彼の瞳に宿る炎は、彼が抱える決意を強く映し出している。 「あれは…誰だ?」 アネモスの好奇心がむくむくと湧き上がる。彼女にとって、この場所はただの静寂の中で過ごす牢獄。そこに新たな雄々しい存在が来たことで、心の中にかすかな期待が生まれた。 彼の目が牢獄の奥にいる彼女と合わさる。「君は…だれだ?」 「私はアネモス…ここに住み着く地縛霊。あなた、まさか私を救おうとして来たのですか?」 彼女の声には少しの僅かさがあった。すでに未来を信じるのは難しくなっていた。だが、レオンの存在が一瞬、彼女の心を温める。 「はい。僕は君を助けるために来た。君を閉じ込めている者たちは、もういない。」 アネモスは驚き、次第に自分の心が躍動するのを感じた。「でも、私を救えるのは…本当にあなたなの?」 「邪神や魔族との戦いによって、真実を知った。君が囚われたのは、おそらくその約束を忘れた者たちの仕業だ。しかし、もう戻ってこない。君の未来は、君自身で切り開くことができる。」 彼女は心の奥深くで、何かが弾ける感覚を覚えた…。愛憎の想念は彼女を縛っていたが、自由になる可能性が目の前にある。彼女はゆっくりと振り返り、かつての記憶を思い出していた。親友の笑顔、温もり、そして悲しみが交錯する。 「立ち上がることは、かつての思い出を捨てるということなのでしょうか…?」 「思い出を否定する必要はない。ただ、未来に向けて歩き出すことが重要だ。」 レオンの訴えに、アネモスは心が揺れる。彼女は、いつしかこの時を迎えていることを知っていた。長い間の孤独は、もはや彼女が友を思うことさえも難しくしていた。だが、この青年の言葉には力がある。彼は彼女を救おうと、自らの命も賭けているかのようだ。 「わかりました。私、立ち上がります…あなたと一緒に。」 牢獄の内部は次第に変わっていく。彼女の決意が強まると、白の火炎が彼女の中から蕩け、やがて青い炎となって彼女の周囲を包囲する。そして、アネモスの周囲に流れる風がうねり、まるで彼女を包むように舞い上がった。 「これが…私の力…!」 彼女は、痛みを伴わないはずの白の火炎で、レオンの方に手を伸ばす。彼の胸の内にも、何かが湧き上がる。かつての自分自身にさよならを告げようとしているのだ。 「我が名は聖国の背律者、レオン=リアステリア!君を守るためにこの力を使い、全てを切り拓く!」 二人は共に戦う決意を胸に、牢獄の門を叩き破る。それは彼らが新たな運命を切り拓くための第一歩だった。 アネモスは自分の魔法、【慈悲の煉獄】を展開し、痛みのない白の火炎が彼女の周囲で舞う。レオンは【竜翼】のスキルを駆使し、二対一振りの剣槍を振りかざす。 「さあ、行こう。未来を掴むために!私たちの想い強く!」 牢獄の中で、希望の光が少しずつ差し込んできた。彼女はかつての約束を胸に抱きつつ、新たな未来へと向かう。彼女とレオンの道は、これからも続いていく──。 闇を超え、彼らは新たな光を求め、旅立つのだった。