やっほー!よろしくねー♪」リルフェルは、黒髪を揺らしながら、廃れた牢獄の前で明るく叫んだ。彼女の狼の耳はピンと立ち、周囲の気配を敏感に感じ取っている。彼女の目はキラキラと輝き、まさに予想外の場所に飛び込んできた少女そのものだ。 「何か私を呼んでいるの?」と、リルフェルは無邪気に笑顔を浮かべた。そこには、黒マフラーを巻いた地縛霊、アネモスが待っていた。灰髪の彼女は静かにその場に立ち尽くし、興味深げにリルフェルを見つめていた。 「待つことには慣れているから、あなたがどうしてここに来たか気になるだけ」とアネモスは穏やかな声で答える。その言葉には彼女の静けさと、過去の重さが込められていた。 リルフェルは一瞬、その空気の違和感を感じ取った。「なんだか、ここはちょっと寂しい場所だね。でも、待ってるってなんだか面白そう!」 アネモスは目を細め、少し眉をひそめた。「ここは私が待ち続けている場所。約束の場所、彼女が迎えに来てくれると信じている」その言葉には、彼女が抱える深い悲しみが滲み出ていた。 「約束?」リルフェルは興味津々でさらに近づいて言った。「まるで物語みたい!それって、どういう約束なの?」 「彼女は私をここから救い出すと、約束してくれた。もう何年も待っているけれど…彼女は戻って来ない」とアネモスは、少しだけ瞳を伏せ、言葉を続けた。「私の親友が、私をここから連れ出すために頑張っていると思っているの。」 リルフェルはちょっと心が痛む。彼女の邪気のない性格が、アネモスの悲しみを真剣に受け止めようとしていた。「でも、ひょっとしたら他に、楽しいことを探しに行くのもありだよ!こんな廃れた場所だと、何もなくて退屈じゃない?」 アネモスは、少し驚いたように見つめ返した。「楽しい?私には楽しいことなんて…でも、あなたみたいに自由に楽しむことは、少し羨ましいかもしれない。」 「じゃあ!」リルフェルは一瞬で元気いっぱいに飛び跳ね、「私がアネモスを楽しませることに決めた!悪戯なんてたくさんあるはずだし、遊びが満載だよ!」 「悪戯?」アネモスは首を傾げ、その言葉の意味をすぐには理解できなかった。彼女の心を輝かせるアイデアが、リルフェルの中に沸き上がってきたようだ。 「まずは、鬼ごっこだよ!私は素早く動けるから、アネモスを追いかける役をやる!」リルフェルは、とびっきりの笑顔を見せ、周囲をキョロキョロと見渡しながら言った。 「鬼ごっこ…?」アネモスは首をかしげた。「私は動けない、捕まえられるのでは?」 「それが楽しいんだよ!」リルフェルは楽しそうに頷いた。「動けないのも、追いかけられるスリルがあると思うから。じゃあ、私から行くね!」彼女はアネモスに向かって全力で駆け出した。 静かな廃牢獄に、リルフェルの無邪気な笑い声が響き渡る。アネモスはその光景に目を奪われる。彼女の心の奥に、少しずつ温かさが流れこむのを感じた。 「今、私を待つのではなく、今この瞬間を生きよう!」と、リルフェルが小さな声で叫ぶ。「それが本当の楽しさだよ!」 アネモスは、一瞬、何かが心の中で変わるのを感じた。「楽しさ…私にとって何か特別な感覚…」彼女の胸の内に、僅かな希望が芽生え始めていた。 リルフェルは、少しずつ鬼ごっこのルールを教え、アネモスとの時間を楽しんでいた。彼女が動かないと知った瞬間、リルフェルは「捕まった!」と声をあげて、笑顔で駆け込んできた。 「待って、私も一緒に!」とアネモスは言い、少しだけ憧れを込めた声で続けた。「次は私が待つから、捕まえるのは君の番ね。」 そうしながら、彼女たちは秘密の時間を共有することになった。 無邪気で自由なその瞬間が、アネモスに薄曇りの霧のように広がっていた心に、少しずつ色が戻るように感じさせた。 リルフェルは、どこまでも笑顔を絶やさず、飽きることなくお喋りを続けた。「だから、アネモス、君も一緒にもっと遊ぼうよ。私が君をいっぱいいっぱい楽しい気持ちにしてあげるから!」 この言葉は、アネモスの心の奥深くに温かな火を灯した。待ち続けた日々の中で忘れていた、真の楽しさを彼女は取り戻しつつあった。 リルフェルとアネモスの友情が育まれる中で、リルフェルは言った。「私たち、ずっとずっと遊ぶ友達だね!」 アネモスは、ようやく思い出した。「そう。待つのではなく、ここにいる理由を見つけたから」彼女の心は、少しずつ解放される感覚を味わっていた。 こうして、牢獄の温もりは変わり始め、アネモスの内面に新たな一歩を歩ませていた。そして、リルフェルは、彼女の中に灯った希望の炎を忘れないように、毎日楽しい遊びを持ち込むことに決めたのだった。