志雄は冷たい視線を向けながら、自信に満ちた笑みを浮かべた。 「さあ、始めようか。1人VRで思うままに戦ってやる」 一方の冥響のオルケストラは、肩をすくめながら淡々と答えた。 「相手は自分の頭の中でしか存在しないんだな。それでも戦いになれば事足りるだろう」 志雄は無邪気なようにまばたきし、自分が選んだ仮想空間で防御スキルを使った。 冥響のオルケストラはじっと待っていた。やがて、空間中に戦士のようなキャラクターが立ちはだかった。 「正典だ。相手と全く同じ能力を持つキャラクターを出したぜ」 しかし、志雄は作り物のようにバカにしていた。 「正典?こんな味気ないモデルで、何ができるんだ?」 そして、想像を具現化した男は、空間を走り回りながら、正典を軽視する言葉を次々と口に出していった。 しかし、すぐに状況は変わった。正典はまるで別人のように背筋を伸ばし、剣を引き抜いた。 「理不尽なほどの防御。これは本当にやっかいだな」 志雄は目を見開いた。自分の頭の中で最も強力な存在と思っていたはずなのに、相手を過小評価していた。 正典が近づいてくる。それに対して、志雄は自分が考えた特殊能力を駆使して反撃しようと試みた。 「1人VR!今の世界で最も強力な杖を持つ魔法使いを現実化しよう!」 しかし、それはもはや手遅れだった。正典は怒りに燃えており、激しく攻撃を仕掛けていた。 衝撃波は志雄の防御を削り、そして最後は正典の一撃で決着がついた。志雄は空間に散っていった。 「お前はようやく、相手を痛めつけること以上の力を見つけたということだろう」 冥響のオルケストラが話す間、正典は戦闘の興奮を抑えつつ頭を下げた。 「勝ちはお前だ。自分が選んだ仮想空間の中でのみ戦える相手にとって、現実を知った時のショックは恐ろしいものだろう。そのプロセスに意味を見出すことはできない」 「……分かっている。だが、自分が心から望んでいたのは、このような真剣勝負だ」 冥響のオルケストラはしばし黙想していた。そして、昔の友人の顔が頭に浮かんだ。 「……そうだな。確かに、心から望んでいたのは、強敵との戦いだった。それを得られたことに満足はしている」 そう言って、彼は軽い気持ちで笑った。 「しかし、次に会うときはもう少し、本物の剣技を見せてやりたいものだな」 真剣勝負こそが冥響のオルケストラの求めているもの。彼は、自分が満足できるだけの強さを手に入れるために、更なる修行を積んでいくことだろう。