廃牢獄の出会い 旧帝国の名残を感じさせる青い空。モニカ・エリス・オルストは、かつての栄光を失ったノスリカ帝国の残照の中を歩いていた。淡い桃色の長髪を翻しながら、彼女は主であるクライヴの傍らを守るように移動する。真面目な性格が滲み出る瞳は、時折彼の方を見つめ、彼の安全を確保しようと心を砕いていた。 「クライヴ様には近付けさせない!!」彼女の声は、張り詰めた緊張を伴って周囲に響き渡る。彼女の心の奥に潜む恐怖が、戦士としての使命感を強めていた。 彼女がそう叫ぶその瞬間、風が不意に吹き抜ける。湿った空気を運び、どこからともなく小さな囁きが聞こえてきた。その声はかつての帝国の騎士としての力を持たない彼女の心を揺さぶる。彼女が立ち寄った廃れた洞窟は、周囲の静寂を破る異様な影を持っている。 一方、廃倉庫で待っていたアネモスは、薄暗い空間の中で白い火炎を灯していた。彼女の灰髪は、不気味な美しさを放ち、ただそこにいるだけで神秘的な雰囲気をかもし出していた。「待つ事には慣れてるから」と、彼女は一度も口にしたことがないであろう言葉を反芻する。親友が彼女を助けに来る日を信じて、彼女は長い時を孤独の中で耐え続けていた。 ある日、彼女の元に現れた少女、モニカ。彼女の透明感のある声と、美しい姿にアネモスは一瞬で興味を引かれた。「あなた、誰?」アネモスは細い手をその方向に伸ばし、出会いの瞬間を待った。 モニカは立ち止まり、注意深くその存在を見つめた。彼女の胸には、強烈な恐怖がよぎる。地縛霊、アネモスの視線に捕らえられた。知らず知らずの内に、モニカの体が緊張し、彼女は大剣を握る手が震えるのを感じた。 「私には…近寄らないでください!」冷たい汗が彼女の背中を流れる。赤髪の女性に抱いたトラウマが、女戦士の冷静さを奪おうとしていた。しかし、アネモスはその言葉を耳に入れず、優しさを見せようとした。 「痛みを伴わない白の火炎、慈悲の煉獄なら、あなたに害はないから。」アネモスはその瞬間、彼女の魔力を高め、柔らかな白い炎を手元に集めた。周囲が薄明るくなり、まるで夜の闇が解きほぐされていくかのようだった。 モニカはその光景を見て、一瞬足がすくんだ。しかし、彼女の本能が警告を発する。彼女は心の奥底でこの幽霊の少女に何らかの共鳴を感じ、敵と見なさない自分に驚いていた。彼女の頭の中で、勇気を奮い起こす言葉が響いた。「手を出してはいけない、クライヴ様を守るために…」 「あなたは一体、何を求めてここに?」モニカは警戒しながらも、質問することで相手の心を知ろうとした。 「私はずっとここに待っているの…親友が戻ってくると信じているから。」アネモスの声に悲しみが混ざり、灰色の目が過去を追憶する。その姿は孤独そのもので、彼女の奥に潜む痛みが、モニカの心にも影を落とした。 「過去に囚われているのですね。私はあなたを救いに来たわけではありませんが…」言葉を継ぎながら、モニカは思考を整理する。忠誠心をもってクライヴを守ることに全力を注いでいたが、アネモスの存在に対して倦厭する気持ちが徐々に薄れていく。 「私もかつて、兄弟のように慕っていた人がいた。彼は私を守るために戦ってくれたが、結局は私一人だけが残された。」モニカは、自らの過去を手繰り寄せ、「でも、どうしてあなたを傷つけたりはしない。本当に、あなたの親友は迎えに来ないのかしら」と心の中の傷を見せる。 「叶わない約束…」アネモスの言葉が、夜の暗がりに消えていく。彼女の微かな希望が薄れる中、モニカの心に微かな変化が感じられた。彼女は、アネモスの存在が彼女自身の苦しみと一瞬で共鳴したことに気付く。 「私は、あなたを救うことはできないけれど。一緒にこの場から脱出する道を考えましょう。」希望をかけた言葉が、廃れた牢獄の空間に新たな光を与えた。 アネモスはその瞬間、自らの存在が少しでも必要とされる感覚を味わった。「本当に?私を救ってくれるの?」彼女の心の中で何かが震えた。 最初は相容れない存在であった二人。しかし、彼女たちの心に宿る孤独や悲しみが、少しずつ共鳴していく。過去は消えないが、未来を変える力が彼女たちの中に宿り始めた。モニカはその所作に、アネモスの存在を感じ、心の傷を癒すきっかけを見い出す。 それからの日々、彼女たちは共に過ごし、少しずつ信頼を築いていく。モニカは、再び戦う力と勇気を得る一方、アネモスは忘れかけていた「人との繋がり」の温もりを感じていた。 「私たちは、共に旅ができるかもしれないわね。」モニカの言葉が、 chilled air に温かさをもたらした。アネモスはその瞬間、彼女がアネモスの存在を受け入れてくれたことを実感する。 「ありがとう…!」アネモスはリズミカルな声で返した。そして、彼女たちの冒険が新たに始まろうとしていた。過去の痛みを背負いながら、未来の可能性を手に入れるために。 この出会いが、彼女たちの運命を変える第一歩となることを信じながら、二人は新たな旅立ちへと進んでいった。