

ある静かな酒場の隅、酔いどれの勇者・タキタ・リクロストはひとり、ジンを傾けていた。銀髪が光り、碧眼が煌めくが、彼女のこの静寂がすぐに崩れ去ることになるとは予想もしていなかった。だが、彼女の飲み過ぎも影響していたのか、どこかの隅から猫の魔物が現れたのだ。 シルクハットをきっちり被り、眼鏡をかけた猫は、威厳に満ちた表情でタキタに近づく。彼は自己紹介をする間もなく、タキタの視界に入った。 「何をしておるのだ、酔いどれの勇者。吾輩は名が必要なのだ。」猫は冷たい声で言った。 「えっと…あなたにふさわしい名前を考えるの?」タキタは微笑みながら答える。 酔いどれの勇者は口元が緩む。普段は冷静で穏やかだが、酒が回り始めるとその冷静さが失われ、饒舌になり、急に感情が高ぶる。そんな彼女は、猫のためにさっと頭を巡らせ、提案した。 「じゃあ、『黒猫大公』なんてどう?威厳があって格好いいと思うよ!」 「黒猫大公?」猫は顎に手をやり、不満そうに聞き返す。「それは吾輩の気品を必要以上に強調しすぎている。もっと繊細かつ優雅な名前が良いのではないか?」 「分かった、分かった!」タキタは心の中で彼の不満を理解しながら、再び頭をひねった。「じゃあ、『胡椒の王子』とか?」 「胡椒の王子?」猫は目を細め、生意気な表情を浮かべた。「妙案とは言えない。しかし、少し気に入った部分も無きにしも非ず…」 「ほんと?でも、もっと素晴らしい名前にしたいよね!」タキタは手を振り、さらに考えを巡らす。「そうだ!『ルビー猫公爵』なんてどう?」 猫は眉をひそめ、妥協する様子も見せなかった。タキタはその様子を見て、やがて少しむっとした表情を見せた。「そんなにダメなの?」 「吾輩の名前に他人の色が入るのは許しがたいことだ!」猫は激しく言い返した。「もっと自分らしさを感じる名前が必要なのだよ!」 酔いしれたタキタはお酒をひと口飲み、笑顔を見せた。「そうか、そうか。ああ、これだ!『偉大なる夜の使者』!」 「夜の使者…か。」猫は一瞬の沈黙の後、大きくため息をついた。「良い名前ではある。しかし、吾輩には少し重すぎる。やはり…」 タキタはその言葉を聞いて、心の中で何かが閃いた。「じゃあ、最後に…『シルクの魔法猫』!」 猫は少し考え込んだ後、「うーむ…少し可愛らしすぎるが、私の服装を思い出させる。一部悪くはない。だが、やはり我が名はもっと威厳を持つべきだ!」 「じゃあ、もう思いつかないから、自由に名乗ってみて!」タキタは涙目になりながらも笑った。「だって、お酒が…ああ、もう無理!」 「そうか…吾輩の名前は永遠に曖昧なものである可能性もある。名前の重さすら、器を選ばねば意味がないとわかった。」猫は言い、目を細めた。 タキタが酔いすぎて泣き出しそうになったその瞬間、猫は優雅に振る舞った。「名が無いことを名乗ることこそ、吾輩の真の名前なのかもしれないな。」 その言葉を残し、猫はシルクハットを深くかぶり、まるで影のように静かに酒場を後にした。タキタはその後姿を見守りながら、「捕まえた♡」と、迷わず呟いた。酔っ払った自分と向き合いながら、彼女は不思議な感覚を胸に秘めるのだった。