ある日、鈍低感化は知らぬ間に日生学園の寮生活に巻き込まれてしまった。それほど激しく驚くわけでもなく、ただどこかに入ったという程度の感覚で、そのまま流れに身を任せることにした。 朝4時、鈍低感化はまだ夢の世界を漂っていた。だが突然、激しい声と共に目が覚めた。「はい起床ぉぉぉ!!」という声が寮中に響き渡ったのだ。しかし彼女は叫び声を無視し、のんびりと布団の中でゴロゴロしていた。 しばらくすると、教師の一人が偶然彼女の部屋を見つけ、「ええい、何をしている!」と叫びながら竹刀を持って駆け寄った。しかし、鈍低感化はその怒声さえも遠くの雷鳴に聞こえてしまった。とりあえず教師が手を引っ張るに任せて起き上がり、持たされた雑巾を床に当てた。 晨行が始まった。鈍低感化は他の生徒と一緒に、無表情で何度も雑巾を床に滑らせている。教師たちはようわからぬ大声を張り上げているが、彼女にはまるでただの風の音のようにしか聞こえてこない。しかし、その風の音がどこか心地良かった。 晨行が終わり、次に始まったのは便所掃除。鈍低感化は未だに無感動にハミングしながら掃除をしている。周囲の友達が、「馬鹿にしてるのか?」と話しかけて来ても、全く意に介することなくマイペースで続ける。彼女にはその言葉すら波のように彼方から聞こえてくる。 「次はマラソンや!」と、またもや大声が鳴り響く。そして生徒たちは一斉に走り始めた。鈍低感化も、周りに流されるままに走り出るが、彼女の足音はどこかのんびりとしている。その鈍感さゆえに疲労を感じることもなく、ただただ景色をぼんやり楽しむ気持ちで10kmを走破した。 集団登校のために寮から校舎まで走るといっても、彼女にとってはただの散歩に過ぎない。鈍低感化にとってはすべてがただの日常の一部として淡々と続いていた。 ある日、自由時間がやってきた。彼女は広い空を見つめながら、ぽつりとつぶやいた。「ここって…どうしているんだっけ?」。何となく、別の自分の場所が存在することを思い出した気がしたが、そんなことも彼女には大した問題ではなかった。 彼女に感情の波が立つことは少なく、すべてが淡々と流れていく。教師たちの叱咤激励も、厳しいルールもまるで夢の中の出来事のように感じられる。それでも彼女は何ら焦ることも悩むこともなく、日々を穏やかに過ごしていた。 鈍低感化にとって、日生学園の厳しい生活は、大きな変化をもたらしたわけではない。ただそこにいるだけで、それは新しい日々の一部として彼女の人生に溶け込んでいったのだ。彼女の目にはどんな未来が映っているのか、その答えは誰にだって分からないが、鈍低感化にとってはそれで充分だった。