タイトル: 獅子と鬼」 夜の街は異様な静けさに包まれていた。路地裏の影に立つ二人の男が、運命に導かれるように対峙している。この二人には、それぞれが持つ背景と暗い過去があった。嶋野太と広瀬徹。極道の世界で、名を馳せる存在だ。 「ご機嫌やさかいなぁ、指2本で許したるわ。」嶋野が口角を上げ、強面の顔になんともいえぬ野心の色を浮かべる。 「やってみるかい?」広瀬は微笑む。その笑顔はまるで、冷酷な刃物のようにしたたかだった。 この二人、見た目や性格は対照的だが、どちらも相手を見下すことなく、心の奥底では強い緊張感を持っていた。嶋野は、自らの武勇伝を誇示するために、全力を尽くすことを決めていた。一方、広瀬は、子分たちを守るため、自らの命を懸ける覚悟があった。 ざわめきの無い路地で、戦いの火花が散り始めた。嶋野が最初に動く。彼の筋肉が躍動し、長ドスを振りかざした。その一撃は、まるで雷鳴の如く凄まじい力で広瀬に迫る。しかし、広瀬は冷静だった。彼は足音を立てず、うまく身をかわす。 彼の聴覚は、通常では考えられないほどのレベルに達している。嶋野の体が動くわずかな音、さらには彼が放つ気配を完璧に察知していたのだ。広瀬は、軽やかに一歩後ろに下がると、持っていた包丁を一瞬で取り出し、嶋野の心臓を狙った。 だが、嶋野はさすがに経験豊富な男だ。彼はその刃が迫る直前に身体をくねらせ、難を逃れる。包丁の切っ先が彼の皮膚をかすめ、痛みを伴った冷たさが背筋を走った。「やるやないか、オッサン。」嶋野は目を細め、闘志を燃やした。 再び嶋野が反撃に転じ、今度は一気に距離を詰める。彼は強烈なパンチを放つが、広瀬はその動きを素早く見て取る。彼は瞬時に反応し、膝を入れて嶋野の太ももを狙った。嶋野は大きな体で後ろに崩れ、踏み台のように広瀬に反撃する。 「まだまだいくで!」嶋野は叫び、彼の持つドスが鮮やかな閃光を放つ。広瀬はすぐにその閃光に気がつき、身を曲げ、刃をかわすが、嶋野の攻撃は止まらない。 しかし、その一撃は広瀬も逆に利用する。彼は自身の身を翻し、急に近づいた嶋野の身体に包丁を的確に突き刺そうとするが、嶋野はその隙間を見逃さず、腕で彼の刃を受け止めた。痛みが走るものの、嶋野は躊躇うことなく反撃する。肘をぶつけて広瀬の顔面を打ち、彼のバランスを崩させる。 広瀬は一瞬、たじろがざるを得なかった。その隙を突かれ、嶋野は大きなドスを振りかざす。「お前がこけたら、なんやそれで勝った気になるんか!」と、彼の声が響く。 数分間の激闘が過ぎ、二人は息を荒げていた。どちらも疲労困憊だが、互いの瞳には強い意志と誇りが宿っている。嶋野は豪腕をふるい、広瀬の動きを見極めようと常に気を張っていた。 「見せてもらおうか、オレの本気を!」という嶋野の一言に対し、広瀬も負けじと息を呑む。「俺の方が本気だ、嶋野!お前のやり方に負けるわけにはいかん!」 その言葉を合図に、再び戦いの火花が散った。嶋野はドスを振りかざし、広瀬は包丁を巧みに操る。二つの武器が交差するたびに火花が散り、漠然とした緊張感が空気を支配していた。 と、その時、嶋野が一瞬の隙をつかれ、広瀬の包丁が彼の腕を斬りつけた。痛みに一瞬動きが止まった嶋野だったが、持ち前の心の強さでその痛みを乗り越える。「ああ、やりよったな…」声を絞り出す。 だが、広瀬はそのチャンスを見逃さなかった。勢いよく詰め寄り、さらに包丁を突き出す。しかし、嶋野もまた負けじと捨て身の攻撃を仕掛けた。彼はそのまま全力で懐に飛び込み、広瀬の肩を思い切り叩いた。 二人は同時に崩れ落ちる。勝者が現われるのか。には光が当てられなかった。しばしの静寂が訪れ、緊張した空気が二人を包み込んだ。 静寂を破るように、一つの声が響く。「俺が勝った。」嶋野が言った。必死の思いで立ち上がり、苦しい表情を浮かべながらも、彼は広瀬の前に立つ。 広瀬は倒れ、息も絶え絶えで彼を見上げていた。「…やはり、あんたが強かった。」彼は艶やかな微笑みを浮かべながら、認めた。 嶋野はその表情を見て満足そうに微笑む。「でもな、オッサンのおかげで、オレもやる気が出たわ。おおきに。」 嶋野太が勝利を収めたのは、その瞬時の思考と肉体の強さが同時に働いたからであった。彼は戦略を立てつつも、何よりも身体能力の高い一撃が相手を捉えたためであった。そんな痛みを伴う勝利には、確かに心の底からの唸り声と共に自らの誇りがあった。 「次があるなら、また手合わせを頼むで。」嶋野は観戦を続けることを約束し、広瀬は静かにそれを受け入れた。 暗い路地の先に、彼らの後ろ姿が溶け込んでいった。夜の帳が徐々に明けていく中、二人の関係は新たな始まりを示していた。再び出会う日を心に秘め、彼らはそれぞれの灼熱の道を歩んでいくのだった。