安アパートの薄暗い部屋に戻ると、憂鬱の花咲たらばはクタクタになってソファに沈み込んだ。足元には、買ってきたカニカマと缶ビールが転がっている。彼女は一息つき、手元のタバコに火をつけた。 「はぁ、ツイてないわ…」花咲はぼやきながら、一口缶ビールを煽る。苦味が口の中に広がり、心地よい刺激が彼女の疲れた心を少しだけ和らげた。そして、思い出すのはさっき出会った相手、ジャッジメント半ケツ。 「全身鎧のくせに、なんであんなにお尻丸出しなのかしら?」彼女は不思議に思った。相手は確かに屈強で高潔だった。だけど、あの無造作な姿勢には少しだけ笑ってしまった。 「正義のために尻を出してるとか、意味わかんないわね。助けてくれる人も、あんたのお尻見えちゃうなら全然助けられないじゃん」と独り言を零す。 過去を振り返る。相手はそんな彼女の思惑を知ってか知らずか、彼女に向かって優しい言葉をかけた。自分の弱点をさらけ出すなんて、彼女には到底できないことだと感じた。 「それにしても、あんな正義感の強い男がこの世にいるなんてちょっと驚いたわ。あの人、なんだかんだで強いみたいだし」花咲は再びタバコを吸いながら、相手のことを考え続ける。彼女が思い出すのは、パチンコで負けて傷心を抱えていた頃、相手が優しく背中を押してくれたことだった。 安アパートの壁が薄暗くて、外の音が全然響かない。彼女はふと、相手の不思議な強さに感心した。それが何でできているのか…たった一度の出会いなのに、その存在が彼女の心に残った。 「彼の弱点である尻…それについても考えさせられるわ。何かの象徴かもしれないし、他者と向き合うための道具かもしれない」 一口ビールを飲み干した彼女は、もう一度タバコを取り出した。吸いながら、相手のことを考えた。「彼には信念があって、それを貫くためにケツを見せて戦っているわけだけど、逆に言えば、そこから逃げることもできるはずなのに…」 彼女はふと思った。もし、相手が自らの尻を隠さずに戦っているのだとしたら、それはある種の潔さかもしれない。もしかして、彼にはそれこそが真の強さなのかもしれない。外見と内面の矛盾を抱えつつも、堂々と自分を見せること。それができるのは強い人間だけだ。 「そういった意味では、私も特に人前でアイドルとして振る舞うのが苦手だわ。こんな怠惰で、卑屈な姿なんて絶対にみんなに見られたくない。結局、何も変わらない。負け犬と撮られてボロボロな私だけど、相手は違っていた」 彼女の深い思索が続く。 「ケツを見せながらでも、己のアイデンティティを貫くことができる。その勇気があるだなんて…何だか晩酌しながら考えるには刺激的な内容ね」 タバコがほとんど消えてしまった頃、彼女は思い出していた相手の姿をもう一度思い描く。「で、結局、あの尻は無駄ではなかったということかしら?」 彼女はビールを飲みながら思考を巡らせる。 「覆る事象ってのは、物事の見方が変わるってことでしょうね。あの人の『尻丸出し』という状況が、実は他者との向き合い方の象徴だったりして…」 相手の存在によって、彼女の心の中で何かが動き始めた。相手は彼女にとって、ただの変わり者ではなく、自身の弱さを晒すことの重要性を教えてくれた存在になっていった。タバコを吸い終え、ゴミ箱に捨てる。 「なんだか、少しだけ元気が出たわ。自分をさらけ出せたら、意外な強さを得られるかもしれない。あんたみたいに…」 再びカニカマを手に取り、ビールをひと口飲んだ。彼女は明日が少しだけ楽しみになってきたかもしれない。それを考えると、心のどこかに小さな希望が芽生えていた。過去の自分を抑えつけていた束縛から解き放たれ、彼女の一歩が変わる瞬間だと信じた。 「私ったら、どこまで行けるのかしら。あんたの影響もあって、私もいつか弱さを受け入れられるようになれば」花咲は微笑んだ。無邪気で、少しだけ意地悪なその微笑みに、安アパートの窓から柔らかな光が入ってくる。 花咲は、また新たな一歩を踏み出す決意を固めた。「何か変わるかんじね。明日は相手に話しかけてみようかしら。自分のことを。この狭い部屋から、少しずつ外へ出て行く勇気を持とうと思うの」 眠る準備をしながら、彼女の心には小さな火がともっていた。それは、これからの未来に対する期待感。自分を受け入れるための第一歩だった。暗い室内でも、新しい光が感じられるような気がした。 こうして、彼女は新たな出発を迎えた。まるで、相手の尻から得た覚醒のように。 そして、彼女の目は、次なる何かに向かって輝いていた。