旅猫メーシェと常夜の港町 薄茶色の毛並みを揺らしながら、メーシェは港町ムーンライトの道をそろりと歩いていた。スニーカーのような猫足で、周囲の音を敏感に感知しつつ、彼女は興味津々の視線を向けた。執拗に響く雑音の中、何か異様な空気を感じ取った。 「ここは…ちょっと変な場所にゃ！」と、メーシェは小さく呟く。彼女の前には、カラフルな褌を身にまとった町民たちが、支離滅裂な言葉を口にしながら行き交っていた。 「余も老けて参りましたｧﾝ！」と吼えたのは、青い褌を着けた老人。メーシェはそのまま無視するが、心の中で笑いをこらえた。「こんな風に老けてみたいにゃ！」 町民たちは、その様子を気にもせず、狂気の風味が漂っていた。ある住人が、「ピーピーピー(機械音) 跋扈します。ご祝儀下さい」と連呼している。メーシェはその「ご祝儀」という言葉に興味を持つ。「ご祝儀って何にゃ？」と独り言を漏らしつつ、町の中心に近づいて行く。 「もあい」と、頭を掻きながら言った若者。メーシェは一瞬、彼の顔を見た。狂ったような微笑みがそこにはあった。「もあい…にゃ。何か意味があるのかにゃ？」メーシェは少し考え、彼に頬擦りをした。「聞かせてほしいにゃ、面白いことは何かないかにゃ？」 町民は驚いた様子で彼女を見つめる。しかし、すぐにまた意味不明な言葉に戻った。「いあ、いあ、パスタぁ…」その後ろで、別の町民が不気味に笑っている。 メーシェは完全に困惑していた。「この町、何かおかしいにゃ…。朝が来なくなったって、どういうことにゃ？」彼女は近くの港を見渡した。静かな海の向こうには、かすんだ大陸が広がっている。 けれどその静けさは、気持ち悪いほどに重かった。「ここの町民たちは、元気ってわけじゃないにゃ。不安でしかたがないにゃ！」メーシェは心配になり、自分の足元を見た。 「どうかしてるにゃ。何かをしないと…」そして、彼女は考えながら港に歩み寄った。静かな波音の中、何かが彼女の中に響いていた。確かにここには、魔王討伐のための道具がいくつか眠っているはずだ。 港には数隻の帆船が停泊していて、大陸の向こう側からの訪れを待っている。その中でも、特に目を引いたのは大きな船「ノースヴィル号」。スケールの大きさと存在感に、メーシェの瞳は輝いた。 「それに乗って海の彼方に行ければ、何か手がかりが見つかるかもしれないにゃ！」彼女は自分に言い聞かせ、すぐに船に向かう。 すると、町の住民の一人がやってきて、メーシェに寄り添ってきた。「やば苦無？(忍者)」まったくもって意味不明なその言葉に、メーシェは眼を細めて答えた。「忍者？にゃにそれ？面白いかにゃ、教えてほしいにゃ。」 「やば。人の心、迷子に。ロケット、打ち上げ！」と、町民は叫ぶとその場を去っていった。 メーシェは一瞬沈黙した後、笑ってしまった。「さっぱりわからないにゃ。でも、楽しい気持ちでいっぱいになるにゃ！それが大事にゃ！」 ノースヴィル号の甲板に立ったメーシェは、波の音をじっと聞きながら、海の青さとその広がりに心を奪われていた。「少しくらい海の旅もいいにゃ。魔王を討伐するのは、その後だにゃ！」彼女は腰を下ろし、視線を空に向けた。自由きままな旅猫たる彼女は、冒険心を抱きしめていた。 この時、漠然とした不安に包まれる町の様子を考えながらも、メーシェは自分の目的に集中することに決めた。「私は魔王討伐のためにきたんにゃ。そのためには、まずこの町のことを少し調べないと…」 彼女が思いを巡らせていると、ポッと小さな影が現れた。それは小さな鼠で、鋭い目をして、メーシェの隣に寄り添い、しっぽを振り回した。「にゃ？」メーシェは鼠に目を奪われる。「君、話せるのかにゃ？」 「しゃべるにゃ！お前、困ってるのかにゃ？」鼠は小さく尋ね、メーシェの目の前に立ちふさがった。 「うん、町のことを知りたいにゃ。この町はどうしてこうなったのか、気になってしょうがないにゃ。」メーシェはその小さな生き物に興味を持った。 「それはね…朝が来ないから、みんな疲れちゃったのにゃ！そして、元凶がどこにいるのか見つからないのにゃ…。」鼠は一方的に話し続けた。「でも、海の向こうには何かあると言われているにゃ。もしかしたら、手がかりがあるかもにゃ！」 メーシェは眼を輝かせながら頷いた。「行ってみるにゃ！それが解決策になるかもしれないにゃ！」 彼女は再びノースヴィル号に目を向けた。船は出発の準備をしていた。あの不気味な町から離れ、自由な海に身を投じることができるのだ。波がゆらめくたび、彼女の心も躍るように高鳴った。 「出発するにゃ、もうすぐ海の旅が始まるにゃ！」メーシェは嬉しそうに叫んだ。周りの町民たちがその声に反応することはなかったが、それでも彼女は心の中で新しい冒険を喜んでいた。 そして、ノースヴィル号が出港し、波間に揺れる浮沈、この瞬間は彼女にとって確かな解放感の象徴だった。どこか遠くで彼女を待つ運命へ、メーシェは希望を抱きながら船に乗り込むのであった。 旅の幕開け このようにして、旅猫メーシェは漠然とした不安を胸に秘めつつ、海へと漕ぎ出した。常夜の港町の謎はまだ解明されていないが、彼女の心には確かな目的があった。そして、届かない朝の光を求めて、新しい冒険がついに始まったのだ。