第四章: 時の狭間 時の狭間は、薄暗い空間に包まれた異次元のようであった。光も音も乏しく、ただ重苦しい静寂だけが漂っている。わたし、月乙女ゆづは、ここで一人、先代勇者の妹たる謎の少女・ランと向き合っていた。彼女は深い青の瞳を持つ黒髪の少女で、その姿には何か他の者にはない悲しみが宿っているように見えた。 「……あなた様、どうか、魔王を止めてくださいませんか」 彼女の声は、耳元でささやくように響いた。わたしの存在が、ほんの少しでも未来を明るくするのなら、何を犠牲にしてもいいと思った。 「あなたは…何があったのですか。彼の正体は誰なのですか？」 ランは静かに目を閉じ、まるで想いにふけるように語り始めた。 「私の兄、先代勇者レンは、かつて魔王を倒した英雄でした。しかし、その裏には恐ろしい真実が待っていたのです。」 第五章: 先代勇者の過去 彼女の言葉は、時の狭間の空気を変えた。彼女の兄、レンはその名の通り、勇気ある者だった。しかし、彼の運命は残酷だった。 「レンは、異世界から召喚された時、私たちの国を守るために戦っていました。彼は仲間たちと共に魔王を倒し、栄光を手に入れるはずだったのに…。彼が先代魔王を打ち倒してから、何が起こったのかをご存じでしょうか？」 嘘のように広がる平和から、すぐに影が迫った。先代魔王は狡猾だった。認知を歪める大魔法を用いて、レンとランが人間を裏切ったと世界中に思わせてしまった。 「人々は兄を裏切り者だと誤解し、迫害を始めました。彼は…無実なのに、その苦しみを抱えて、私は時の狭間に避難させられたのです。」 ランの声は涙に濡れ、わたしも無意識に彼女の悲しみを感じた。彼女にとって、兄は英雄であり、彼女自身が魔王の姉でもある。その矛盾は、簡単には解消できない。 第六章: 新たな魔王 「やがて、絶望に屈した兄は、先代魔王に唆されました。真実を見失い、彼もまた魔王に成り果ててしまった…」 彼女の目は、サファイアのように輝きながらも、暗い影を宿していた。魔王レンは、本当に悪なのか？彼が辿った道は、呪われたものであったのかもしれない。兄の孤独を想像すると、胸が締め付けられる思いがした。 「だからこそ…あなた様、あなたには魔王を止めてほしいのです。彼には希望がまだ残っているかもしれないのですから…。」 わたしは深く息を吸って、彼女の目を見つめ返した。彼女の願いを無駄にすることはできなかった。兄の苦しみを理解し、そっと心の内に抱える使命を果たさなければならない。 第七章: あなたの決意 「相手の立場を理解しました。彼の過去を背負う者として、私は何かしなければならない。…でも、私にできるのは魔王を倒すことだけです。」 わたしの決意が固まった瞬間、時の狭間が震え、光が差し込んできた。薄暗い空間が揺れ、次の次元へと続く道が開かれた。わたしの心には、魔王レンを止め、彼に真実を伝える使命感が宿っていた。 「わたしは行きます、あなたの兄の救いのために。」 「はい、あなた様…どうか、あなたの光が彼に届きますように…」 ランの祈りを胸に、私は時の狭間を抜け出した。まるで月光のように輝く矢を放つ準備をしながら、もう一度、心の内を見つめ返した。これは単なる戦いではない。人の心を理解する旅だと、私は信じている。 新たな運命が待っている、すべてはここから始まるのだ──。