深夜の静寂を破り、浮かぶ魔法陣の上には、ゆづと魔王レン、そして彼の妹・ランがいた。空は澄み渡り、月の光がまるで祝福のように二人を照らしていた。その光の下で、ゆづは静かに足を運び、レナの隣に立っていた。 「わたし、ゆづと申します。あなたが魔王レン様ですね。」 魔王とはいえ、今の彼はその姿に自信を喪失しているように見えた。ランは、静かに兄に寄り添い、かすかに笑顔を見せる。 「お兄ちゃん、会えてよかったよ、本当に。」 レンは視線を落とし、震える声で清らかな妹の愛を受け止める。しかし心の内には、自分が何をしてしまったのかという重い罪があった。彼は世界を憎み、大きな力を得て魔王となった。しかし、今はその力を使うことさえ許されない虚無の中にいる。 「わたしは、何もかも失くしてしまった…。」 ゆづは優しく微笑むと、静かにその言葉を受け止めた。 「もし願うのであれば、まだ間に合いますよ。生きている限り、何度でもやり直せるのですから。」 レンの目に、かすかな光が宿る。その言葉は、彼の心にわずかな希望の風を吹き込んだ。 「でも、僕は…。」 「あなたは、世界の敵ではありません。誰もが誤解をしています。きっと、私が世界中にあなたの真実を訴えれば、皆が納得します。」 ゆづの言葉は真摯で、一言一言が強く響いた。彼女の言葉の後ろには、過去を抱えた英雄の意志があった。自身が倒してきた魔王がそう語ることに、レンの心は揺さぶられる。 「それでも、僕は妹を守るために多くの罪を犯してしまった。」 「だからこそ、あなたは心を改めることで、その罪を償えるのです。」 レンは涙が溢れそうになるのを感じた。隣には妹のランがいて、無邪気に彼を見上げている。その優しさに触れ、彼は初めて自らの行いを恥じた。 「すみません…、世界のみんなに、こんな風に思われてしまって…。」 その瞬間、レンの目から涙が頬を伝い、彼は幼い妹を抱きしめた。その姿は無垢なる優しさを持った兄の愛であり、過去の憎悪とは全く異なるものだった。 すると、雲の先に暗い影がひとつ、生まれた。その影は大きく成長し、映し出すように飛来してくる。 「何だ？あれは…？」 驚きを隠せないランが兄を見上げる。ゆづもその不安を感じ取った。目の前には、大彗星が。 「大彗星…！」 その正体に気づいたレンは、目が剣のように光り輝いた。彗星の正体は、彼の憎悪を象徴するものであり、過去の自らが生み出したものだった。彼はそれがもたらす恐ろしい影響を悟った。 「兄ちゃん、どうするの…？」 「やめるんだ！こんなのは…僕のせいじゃないか！」 彗星が近づくにつれ、その雄大さに恐れが広がった。悠然と降りかかる影が、混沌の兆しを告げる。 「ゆづさん…、助けてくれ…！」 レンは絶望し、全てを失いつつあった。彼はかつて、自らが望んでいた力の代償として今、自らの憎悪が破滅を呼ぶことを悟る。 「必ず、守り抜きます。あなたを信じています。」 ゆづの言葉が耳に残る。彼女の優しさがあったからこそ、レンは過去を受け入れようとしていた。しかし、彼の心の奥深い憎悪が彗星となっていま迫っている。 彗星が接近する中で、世界が崩壊の危機にさらされようとしていた。 「お兄ちゃん、今が本当の始まりだよ。」 妹の言葉が、彼に力を与えた。レンはゆづと共に、歴史を新たにするための決意を固める。しかし、その影は既に目の前に迫っていた。彗星が落下する影が、希望の光を飲み込んでいく。 その時、彼の心の中で葛藤が起きた。生きるために、この運命を受け入れるのか、それとも消え去るのか。大彗星がもたらす運命の波は、彼の選択に迫っていた。 ここで、彼の闘いは続く。希望が、次なる運命に繋がることを夢見て。