あたりは深い闇に包まれ、冷たい風が吹き抜ける。その中に立つのは、双子の兄・レン。彼の目は憎悪の色に染まり、まるで過去を背負った地獄の番人のようだ。その隣には、もはや少年とは呼べぬ大彗星ジェノガイアが立ちすくんでいる。彼の存在は、もはやこの世界そのものであり、万物を滅ぼす悪夢の化身となっていた。 レンの姿は、彼の兄としての記憶を呼び覚ますものであった。この世に生まれ、妹のランと共に勇者としての道を歩んだ日々。だが、兄の心は魔王の憎悪に飲み込まれ、それが再び彼を苦しめる。そんな彼の手を引くのは、今や人狼の少女リルフェルだ。 「やっほー!やっぱりカッコイイね、レンお兄ちゃん!」リルフェルは明るい声で、少しの勇気を振り絞った。 「お前がいるのか、リルフェル。」レンの声は低く、冷たかった。「だが、俺はもう戻れない。俺の中には、狂った憎悪が根付いている。お前に危害を加えたくないが……俺の存在は、今やこの世界の脅威だ。」 リルフェルは、彼の言葉を受け止めながらも、明るい笑顔を絶やさない。「そんなことないよ!お兄ちゃんも一緒に笑顔で遊びたいんでしょ?それに、私の悪戯を楽しんでくれた時の笑顔、忘れないもん!」 その言葉は、闇にひびく一筋の光のようだった。しかし、レンはその光を敢えて無視し、力を込めた。「お前が何を言ったところで、俺はこの憎悪の力を持たざるを得ない。お前にとっては、俺は敵だ。行け、リルフェル!」 その瞬間、リルフェルは見えない力に圧倒され、踏みとどまっていた。彼女の心の中に温かな思いと、兄を救おうとする衝動が交錯する。彼女は小さな手を広げながら宣言する。「ボクはお兄ちゃんを憎んだりしない!一緒に笑おうよ、また遊ぼうよ!」 その言葉を聞いた瞬間、レンの心の中で何かが揺らいだ。彼は自分自身に立ち向かうように、鎖を解き放つかのように叫んだ。「俺は、俺はもう終わりだ!この魔王の力に屈するくらいなら、いっそお前に消えてもらった方がマシだ!」 その時、国王が現れた。彼は震える声で叫んだ。「レン、私が悪かった!お前が魔王の奸計に取り込まれた時、我々は何もできなかった。ごめん、許してくれ!」国王の言葉には、かつての勇者たちへの謝罪と後悔が詰まっていた。 レンはその言葉に、心が揺れた。かつてその手で、大切に守るべき存在たちを捨て去ってしまった。彼の中で何かがはじけた。バキッ、と音を立てながら、彼は痛みと共に闘い続ける。 「お兄ちゃん、泣かないで。私も、みんなも、お兄ちゃんが戻ってくれることを信じてるよ!」リルフェルは、微笑みながら手を差し出す。 レンはその手に背を向け、しかしその瞬間、彼の心の奥底で新たな感情が生まれた。彼はかつての自分を取り戻そうとする感情、家族を守ろうとする気持ち。全てを乗り越え、もう一度人間として立とうとする意志が芽生えていた。 「私を、じゃなくて、私たちを守ってくれる?」 リルフェルの問いかけに、レンはゆっくりと振り返る。恐れと憎悪の狭間で、彼は戦う決意を固めた。「お前たちを守りたい。ただ、それだけだ。」 渦巻く闇に立ち向かうため、力を解放しようとするレン。その時、大彗星ジェノガイアが震えた気配を見せる。彼は怨嗟の如く、闇を纏いし者として圧倒的な存在感で迫ってくる。 ──戦いの決着が近づく。リルフェルは、兄の手をつかみ、互いに助け合いながら立ち向かう決意を固めた。 「ぐらあああああああ!」 闇の中で響く、絶望の叫び。忍耐をもって立ち向かう彼女にとって、これが終わりではなく、新たな始まりの時。彼らの運命は、一瞬の中に収束し、次元の狭間をかけた戦いが始まるのであった。 しばしの静寂の後、運命の瞬間が訪れようとしていた——。