武仙の後継 ティセルの冒険 ムーンライトの街、昼でも薄暗がりが漂う不気味な港町には、洞窟のように重い空気が流れていた。ティセルは、艶やかな黒髪をそよ風に揺らしながら、カラフルな褌をまとった町民たちの間を慎重に歩いていた。町民は支離滅裂な言葉を呟き、狂気の表情を浮かべている。 「余も老けて参りましたァン!」と、ひとりが顔を赤くして叫んだ。ティセルは心の中で軽くため息をついた。彼女の使命は、どうにかしてこの町の元凶を見つけ、町民に再び平和をもたらすことだ。しかし、今のところ手掛かりはなかった。 彼女はふと通りの奥に目をやると、遠くから響く帆船の音に気づいた。おそらく、定期便の船が到着したのだろう。あるいは、少しでもこのエリアから離れたいのかもしれない。この街を訪れたのは、魔王討伐の依頼を受けたからだ。だが、その魔王の影は依然として見えなかった。 「やば苦無?(忍者)」と隣の町民が目を輝かせ、その周囲には他の町民が「いあ、いあ、パスタぁ…」と時折混じり合った支離滅裂な言葉を交わしていた。ティセルは町民と直接言葉を交わす気にもなれず、背を向けて港へと足を進めた。 港に着くと、数隻の帆船がぷかぷかと浮かんでいる。ティセルは一番近い船に目を向けた。船員たちが忙しそうに働いている中、彼女が近づくと、ひとりの青年が立ち止まった。 「お客さん!どこへ行くんだい?」青年は一瞬驚いたように目を大きくし、その顔には興味と警戒が滲んでいた。 「私はこの町に来た旅人です。魔王を討伐するために、情報を手に入れようとしています。しかし町民たちは皆、狂ってしまって…。」 青年はため息をつき、周囲の様子を窺った。「ああ、その現状は辛いよ。でも朝が来ないのが一番の原因なんだ。あの元凶を探し出さない限り、町民はどうにもならない。」 ティセルは青年の話を聞きながら、決意を新たにした。彼女の武仙闘気が胸の内で高まり、武仙の力を借りてこの危機を乗り越えようと心に誓った。「分かりました。まずは船に乗り、状況をもっと広く見てみます。」 青年が頷く。「それがいい。せめて一時的に町を離れるのも悪くない。気をつけて、何かあったらこの港に戻ってきて。」 「もちろん、ありがとう。」ティセルはそのまま船の中に足を踏み入れ、潮の香りと共に心を落ち着かせた。 船が出航する際、ティセルは最後に振り返り、狂った町民たちを見つめた。「必ず、元凶を見つける。それがあなたたちの未来を救う道だから。」 青く広がる海面の向こうには、未知の冒険が待っている。ティセルは胸に秘めた勇気を持って、船が進む先へと目を向けた。これが彼女の新たな旅の始まりだった。