不穏な空気が漂う魔界、その闇の中で、先代魔王ユダが最後の悪あがきを試みる。 「お前なんかに、この世界の運命を決めさせるものか!」ユダは魔界の力を振り絞り、ティセルに向かって突進するが、運命の歯車はすでに逆回転を始めていた。 その瞬間、虚空から黒い影が現れた。魔王レンがユダを見下ろし、冷酷なまでの一撃を放つ。「終わりだ、お前の悪事も、この苦しみも。」 ユダは驚愕し、その身体が崩れ去り、瞬時に消滅した。闇の中に、もう一つの光が輝き始めた。その光の中からランが現れる。彼女の顔には驚きと喜びが溢れていた。「お兄ちゃん…!あ…お兄ちゃんだ!」 レンは、彼女の声に少し驚いたが、どこか悲しげな笑みを浮かべながら答える。「ラン、久しぶりだ。そして、もう怖がる必要はない。全て、終わったんだ。」 「でも、どうして…またこんなに遠く離れちゃったの?」ランは彼の胸に飛び込むようにして、彼を抱きしめる。 「ごめん、君を守りたかったんだ。」レンは心の中に溜まった苦しみを押し殺しながら、ランの頭を優しく撫でる。しかし、その優しい手が転じたのは、彼女を魔法で眠らせるためだった。 ランは微笑みながら意識を失い、静かにレンの腕の中に滑り込んでいった。魔王は切ない目をしながら、彼女を見つめ続けた。彼の心は魔王としての憎しみで満たされ、ランに穏やかな未来を託す決意を固めていた。 「あなた、聞いてほしいことがある。」魔王はティセルに向いて、真剣な表情を浮かべる。「僕の心は既に魔王として迫害され続けた憎しみで満たされてしまった。だから、この世界を自分もろとも全て破壊して再誕させ、せめてランだけは新世界で自分の分まで幸せに生きてもらうのだ。」 「それを決めたのは自分自身だ。君を巻き込みたくない。だから君は元の世界に戻す。」その言葉に、ティセルは胸が締め付けられる思いだったが、魔王の決意を理解した。 そして、魔王は呪文を唱え、ティセルはその瞬間に力強く元の世界に強制送還された。魔界からの別れを告げることもなく、一瞬で周囲が変わり果てた。 新たな世界に舞い戻ったティセルの耳に、謎の声が響いた。「あの世界でやり残した事は無いか?」 彼女はゆっくりと振り返り、返答を考えながら、その声に心を沈めていった。昔の仲間たちのために、彼女もまた、何かを成し遂げていこうと決意するのだった。