王都の上空に浮かぶ巨大な魔法陣。そこは、かつて魔王として名を馳せた「レン」と今まさに対峙する英雄「ティセル」がいる場所だった。周囲には、破壊の残滓が漂い、静寂が支配する中、相手は孤独で虚無感に包まれたまま立ち尽くしていた。 「お兄ちゃん…」優しい声が響く。 隣に寄り添うのは、彼の妹、ラン。この無垢な少女は、相手の心の奥深くに潜む痛みをわかっているかのように、その小さな手をしっかりと握り締めた。 「僕…、こんなことに…」相手はその言葉を呟いた。彼の目からは、悔恨の涙が溢れ出し、過去の罪が一気に押し寄せてくる。 「キミはもう戦わなくていいんだよ、レン。」ティセルの丁寧な声が相手の耳に響いた。「あなたはこの世界の敵じゃない。誰もあなたを憎んでいないと、僕が信じてる。」 「…でも、僕は…」相手は言葉に詰まった。周囲の人々から、妹を守るために、魔王として立ち向かった自分。けれど運命に翻弄され、敵に仕立て上げられた全てが、彼の中でどうしようもない絶望を生んでいた。 「もう過去を背負うのはやめよう。僕たちは生きている。だから何度でもやり直せる…」ティセルはお茶目な微笑みを浮かべ、相手の痛みを少しでも和らげようとしていた。 その瞬間、相手の心に温かい光が差し込んでくるようだった。「ごめん…、ラン…」相手は震える声でつぶやいた。彼の頑なな心は、妹の存在、そしてティセルの言葉によって少しずつ解きほぐされていく。「僕がこんな魔王になってしまって、本当にごめん…」 「お兄ちゃん、私がいるから。何も恐れないで。」ランは相手の側に立ち、彼を包み込むようにして笑顔を向けた。 「ティセル…、君のおかげで、少しだけ前に進める気がする。」相手は目を閉じ、全ての重荷を軽くする思いで言葉を吐き出した。 しかしその時、空が揺らぎ、突如不気味な黒雲が立ち昇った。ティセルが驚きの目を向ける中、空の天井が一瞬にして割れ、恐るべき光が降り注いだ。 大彗星が、まるで宇宙からの使者のように、彼らの眼前に迫っている。その形は、まさに相手が長年抱え続けた憎悪の象徴だった。彼が流した涙と共に、彼の中で霧散した力が、一つの大きな彗星となり、世界の破滅を齎そうとしていた。 「…まさか、あれは…僕の憎しみの影…？」相手は目を見開き、恐怖に震えた。 「レン、逃げて！」ティセルが叫ぶ。しかしその声は、彼の心には届かなかった。相手は、もはや逃げることもできず、ただ無力感に囚われ、宙に浮かぶ大彗星を見つめるしかなかった。 「お願い、消えて…！」相手は涙を流し、心の底から叫ぶ。 その叫びは、誰にも届かないまま消え、やがて世界に破滅を齎そうとしている大彗星は、無情に夜空を切り裂いて落下していくのだった。