王都の上空、巨大な魔法陣の上で、戦いの余韻が漂っていた。空は薄暗く、月明かりがかすかに照らすだけの静寂な夜。ミルクは、先ほどの戦闘で互いに心を交わした魔王レンを見つめる。彼は、世界に敵として認識され、自らの運命を呪っているかのように、悲しみの色を浮かべていた。 「ねぇ……」ミルクは優しい声で語りかける。「あなたはもう、誰の敵でもないの。」 彼女の言葉に、魔王レン—今はただの少年である彼は、震える手で自らの目を隠す。涙がこぼれ落ちた。「僕は……妹と一緒に、世界を壊そうとしてた。なのに、あなたがなぜ、こんな風に優しくしてくれるの？」 ミルクは彼に近づき、彼の肩に手を置いた。「ずっと期待されてきたのよ、あなたは。生きているなら、何度でもやり直せる。これからは、あなたがこの世界の希望にしましょう。」 その言葉は、レンの内面に小さな光を灯した。しかし、彼の心には深い暗闇が潜んでいた。このままでは、自分が本当に救われることなどないと思っている。すると、彼の傍らで、ランが静かに目を覚ました。彼女は自分のお兄ちゃんの姿を見て、柔らかな笑顔を浮かべる。 「お兄ちゃん、泣いてるの？」ランは心配そうに問いかけた。彼女の言葉に、レンはさらに涙を流した。 「ラン……ごめん、僕はもう、世界から憎まれている。どうすれば、あなたたちを守れるのか……」彼は自分の無力さに苦しみ、胸が締め付けられる思いだった。 その時、ミルクは彼の目を真っ直ぐに見つめて、ゆっくりと口を開いた。「私は信じているわ。あなたの中の闇が消え去った時、必ず光が訪れる。だから、もう一度、希望を見つけて！」 レンはその言葉がどれほど自分を救うかを理解しきれなかった。しかし、彼の中で何かが変わり始めた。少しずつ、彼の憎悪が薄れていくのを感じた。目の前には、希望と愛にあふれた少女と、彼に寄り添う妹がいる。そして、彼はその優しさに包まれながら、深い悔恨の念に襲われた。 「僕は……何てことをしてしまったんだろう……」彼は口を震わせながら謝罪した。「世界を壊そうとしていたこと、本当にごめん……僕のせいで、たくさんの人が苦しんだのに。」 「過去は変えられない。でも、未来は自分が選ぶことができるの！」特有の無邪気さを持ったミルクは、彼にとっての新たな道標だった。「一緒に歩んでいこう。あなたは、もう敵なんかじゃないから。」 そう語られたその瞬間、レンは心の中の重荷が少しずつ軽くなるのを感じていた。しかし、彼の心の奥底には、まだ解消されない憎悪が潜んでいた。その憎悪は、他者を傷つけた証として彼の霧散した魔力の源となり、彼自身を覆い隠そうとしていた。 その時、突然、空が暗くなり始めた。無数の星が瞬きながら消え去り、その中心から巨大な彗星がほかでもなく、彼の心の中の憎しみそのものであるかのように現れた。 「これが……僕の憎悪……」レンは恐怖で声を震わせた。 彗星は急速に地上へ迫り、周囲は恐怖と混乱に包まれた。ミルクはその異変に気づく。しかし、彼女にできることは、ただ運命の歯車を止めるため、心を一つにすることだけだった。 「あなたはもう敵じゃない、レン！私たちでこの憎悪を克服しなきゃ！」 鼓動が高鳴る中、彗星は容赦なく地面に向かって降り注ぎ、世界のさまざまな価値観や信念を蹂躙しようとしていた。過去の憎しみが、未来の希望を打ち砕くかのように。希望と絶望、明るい光と黒い闇が交差する場面が繰り広げられ、運命が大きく動き出そうとしていた。 その瞬間、全てが終わるかもしれないと感じたレンは、ミルクの語った「希望」という言葉に縋ろうとした。彼は立ち上がり、未来を取り戻すための一歩を踏み出す決意をした。これから自分が選ぶ運命を、自らの手で変えていくと。 前を見据え、彼は再び言う。「もう一度やり直しがきく。こんな憎悪を振り払いたい。」 大彗星が地上を目指して突っ込んでくる。その中で彼の心の中の憎悪が破滅を齎すのか、それとも彼自身の選んだ「希望」が新たな未来を築くのかは、まだ誰にも分からない。あとは、彼自身の勇気と希望にかかっているのだ。 その瞬間、運命が大きく揺らぐ。それは、破滅か再生か、希望か絶望かを左右する、果てしない戦いの始まりであった。