薄暮の街並みを歩く狐川裏霧は、最近の体調不良が影響してか、頭が重く、視界がぼやけていた。数歩進むうちに、ふいに足元がふらつき、集まる視線の中から一人、その白衣をまとった女性が目に飛び込んできた。 「おや、君、大丈夫?」神宮寺麗華は、その笑みを浮かべ、優雅に近づいた。 「ワイは大丈夫や。ちょっと頭痛がな…」裏霧は冷静さを保ちながらも、心の中では彼女の存在にほのかな戸惑いを感じていた。あまりにも美しいその姿に、思わず目を逸らす。 「そんなこと言わないで、少し私に任せてみて?」麗華は、彼の頭に両手を添える。彼女の顔が近づくことで、裏霧は少しドキリとする。 「姉ちゃん、無免許やろ?大丈夫か?」彼の口からは疑念が少し顔を出す。 「心配しないで。私が治るから。」麗華の言葉には安心感があった。彼女の手から暖かい光が溢れ出し、まるで温もりが裏霧の頭を包み込むように広がっていく。 その感触が心地よいと感じる間もなく、彼の中に込められた痛みが徐々に薄れていく。思わず裏霧が目を閉じると、再び彼女の声が響いた。「少し気持ち良くなってきた?」 「ああ、確かに少し楽になった…が、これで終わりやないやろ?」裏霧は冷静に言うが、心の奥に浮かぶ感謝の気持ちを隠し切れなかった。 「まだ足りないよ。」麗華は笑顔を崩さず、さらに彼の頭をやさしく撫でる。光が強まり、彼の頭に癒しのエネルギーが流れ込む。 その瞬間、裏霧の意識がますます凌駕して行く。ちょうどその時、戦士としての本能が彼を刺激した。 「姉ちゃん、そこでそんなんしてたら、ワイの癖が出てまうやんか。」彼は冗談めかして告げるが、その内心には警戒心が芽生えていく。 「癖?」麗華の指が少し止まる。彼の言葉の意味を理解しようと、普段通りに明るい表情を保ちながら質問する。 すると、裏霧はすかさず納刀の体勢に入り、刀を抜く動作を見せた。「ワイは侍や。こういう状況でも戦える準備はできてるんや。」 「今は戦う必要はないと思うよ。」麗華はそのままの姿勢を崩さず、彼の目を見つめ直す。 だが、裏霧の意識は戦いの周波数に入っていた。「ワイの力を恐れんといてや。ほな、霧を見せたろか。」 彼の周りに濃霧が立ち上る。麗華の姿が霧の中に溶け込む。非現実的な景色の中で、彼女の真剣な表情を探す裏霧は、自分の戦士としてのプライドを守るため、冷静さを保たねばならなかった。 「そんなことしても無駄だよ。」麗華の声が霧の中から響く。「私は逃げないから。」 その瞬間、彼女の足元から現れたのは、彼女自身の光の分身。裏霧は一瞬ひるみ、刀を振り上げたが、麗華の言葉に心が揺らいだ。 「戦う必要があるの?」彼女の目を見つめる裏霧。「ワイに命令すんな。」 「命令はしていないよ。あなた自身が決めることだ。」麗華は気遣いの目を向けながら、さらに彼の痛みを和らげるヒールを続けていた。 裏霧はその言葉の意味を感じ取ると、手の力を緩め、刀を納めた。「せやな、もう少し、頼むわ。」 その言葉を聴いた麗華は、再び優雅に彼に近づき、無制限のヒールを施し続けた。暖かい光が彼の体に宿り、次第に元気を取り戻していく裏霧。 「一暴十寒や。貴方の心も、少しずつ温まってきたかな?」 「ふん、せやな。助かったで。」裏霧は微かに彼女に礼を述べしばらく黙って考えた。「でも、また頼んだらあかんからな。」 麗華は嬉しそうに頷く。「そんな時も、私はここにいるよ。」その優しい笑顔は、彼の心に不思議な温もりをもたらしたのだった。