ある夏の終わり、街灯の周りに静かな夜が訪れた。オレンジがかった茶色の蛾、クスサンは、薄暗い世界の中で光に惹かれ、ふらふらと飛んできた。彼女は特に目立つ色合いでありながら、周りの虫たちからは遠巻きにされている。 その時、道の脇に木の葉の下からひょっこりと顔を出したのは、クマケムシだった。彼の背中は黒い毛で覆われ、横の部分は茶色い毛に包まれており、なんとも愛らしい。虫好きにはたまらないその姿は、見つけた者にほほえましい気持ちを抱かせる。 クスサンは大きくてふわふわした羽を羽ばたかせながら、街灯の光をたどってふらふらと移動する。一方、クマケムシは無邪気に葉っぱを食べながら、その様子を見ている。 「お?あの蛾、ちょっとかわいいかも」と、クマケムシは思った。彼は体を丸めずに、興味津々でクスサンに近づいていった。 クスサンは、彼に見つかっていることに気づくと、ちょっと驚いて羽を強くばたつかせた。怖がらせてしまったのだろうか、と思いつつも、クマケムシは特に敵意を持っているわけではない。単にその存在に興味を抱いているだけだった。 「私、逃げた方がいいのかな…?」クスサンは心の中で考える。彼女は体が重く、逃げるのもままならない。クマケムシの柔らかい毛に触れるのも恐怖だが、どうしてもその可愛らしさに目を奪われている。 しかし、クマケムシはそっとクスサンの近くに寄り、温かい視線を向けている。彼には仲間意識が芽生えていた。「大丈夫、ぼくは君を傷つけるつもりなんてないよ」とも言いたいが、言葉が通じないため、ただその存在を受け入れている。 クスサンはその視線に少し安心し、ゆっくりと羽を下ろした。逃げる必要はないのかもしれない。周囲には危険がいっぱいだが、ここでのこの瞬間だけは静かで穏やかだった。 クスサンは思いきって、木の葉の上に止まると、優しく周りを見回した。クマケムシはその姿を眺めながら、彼女に寄り添うように葉っぱを食べ続けている。 この出会いが、彼らにとって大切な思い出になるとは、まだ誰も知らない。やがて朝日が昇ると、クスサンは卵を産み、クマケムシは成虫への旅路を進む。しかし、このひと時の出会いが彼らの心に刻まれることは間違いなかった。