森の中、木々が生い茂る場所に一人の妖精がいた。「ロックだぜー!」と叫びながら、お気に入りの妖精サイズの特注ギターを持ち歩く騒がしい妖精、ジャンだ。彼はその小さな体からは想像できないほど大きな声で、周囲の静かな森を乱していた。 「ロックだぜー! 弾くぜー!」とはりきってギターを掻き鳴らすが、音はまるで和音が崩れたからすの鳴き声のようだった。しかし、本人は楽しそうで、その様子を見ると怒る気にもなれない。しかし、調律って何だ? そんなことは彼には関係ない。手を上下に振り、大きな声で歌い上げる。何の歌かは分からないが、勢いは十分だ。 「今日は絶対に良い日になるぜ!」そう思いながら、おそるおそる森の中を進んでいく。それは冒険の始まりを告げているようだった。しかし、興奮しすぎたせいで、ジャンはポケットから何かを落としてしまった。その何かとは、特製のロックバンドのステッカーだったのだ。 「おっと、これはやべーぞ!」しかし、興奮のあまり、気にも止めずに進むジャン。その過程で、つまずき、バランスを崩してしまった。ドサっ! と音を立てて草むらに倒れこむ。彼はしばらくしてゆっくりと起き上がり、「ロックだぜー!」と気合いを入れながら、再びギターを掻き鳴らし始める。 その時、突然、沼の奥から声がした。「泉だって言ってんだろカスが!!!」耳をつんざくような剣幕で怒鳴り声が響く。誰かが現れたのだ。むくむくと立ち上がるシルエットは、ボッサボサの金髪をした、どこか荒んだ雰囲気の女神、泉の女神だった。 「何騒いでるんだ、こいつは! まったく、沼だと思ったら泉だ! 今、沼と間違って言った奴! 声を大にして言ってみろ、泉だ! 泉だって言ってんだよ、カスが!」泉の女神はふんぞり返りながら怒鳴る。彼女の目つきは鋭く、まるで巨人のような圧力を持っている。怒りが彼女の血を沸かせているのだ。 ジャンは驚きながらも、自称ロッカーの彼。バカなことを言わずにいられなかった。「ロックだぜー! 泉だか沼だか、どっちでもいいじゃん! オラオラ、楽しみたいだけなんだ! ロックしてるぜー!」と言い放つ。しかし、その言葉が逆鱗に触れたのか、泉の女神は激昂した。 「いい加減にしろ! 泉が沼になるなんてありえない! お前んとこ、ギターでも弾いて楽しいかもしれねぇが、こっちは真剣なんだ! こんな状態で迷惑かけられてたまるか!」と叫ぶ。 その瞬間、ジャンは女神が怒っている理由を理解した。彼女はこの森の清らかな泉を守る女神なのだ。しかし、そのことが分かっても、ジャンは持ち前の無邪気さを失わなかった。「だってロックだぜー! そんなことで気にしてたら楽しくないじゃんか!」 泉の女神は怒りを強め、「お前のせいで泉がどんどん汚れてに沼にされちまうだろうが! 最低限、落としたもんを返せ!」と叫ぶ。このやり取りがさらに彼女の心を荒ませているのだ。 「落としたもん?」ジャンはドヤ顔で考える。「あ、そういえば、さっき大事なステッカーを落としたかもしれねえな! あれ、超ロックなやつなんだ!」彼はその瞬間、確かに一瞬だけ思い出したが、すぐにまた何かを考え始め、女神の怒りを掻き立てた。 「ステッカーだと!? お前はそれを落としておいて何が楽しいんだ! こっちは泉を守ってんだぞ!」泉の女神の目つきがさらに鋭くなり、彼女の目が火花を散らさせていた。 「全然気にしてねーな!」とジャンはまたそう言う。「ロックなんだから、気にしないでやるぜー! 楽しい時間が大事なんだ!」 女神は彼の言葉に思わず唖然とした。しかし、彼女の荒んだ心に少しだけ何かが響いた。彼がここまで無邪気に楽しそうにしているのは、一体どういう理由からなのか。だが、それも束の間。「おい! さっさと落としたもん返しやがれ!」という怒鳴り声が彼女の心を引き戻す。 「これはロックだぜー! 泉の女神もロックってやつを味わわなきゃダメじゃねえの?」無邪気にそう言うジャン。みれば、彼の特製ステッカーが泥で汚れ、いやになった。女神はそれを拾い上げ、怒りのあまりに吹っ切れた表情で、ギュッと握りしめた。怒りのあまり、彼女は心のどこかに積もる爆発を感じつつ、しかしその様子に少しだけ不思議さを覚えた。 「ロックだとか何とか言ってるお前は本当にわけがわかんねぇな…」泉の女神はため息をつくが、ほんのり笑いがこみ上げた。「だが、お前がいるせいで泉がぐちゃぐちゃになりやがったら、許さねぇぞ!」と宣言したのだ。 「お、確かにお前には申し訳ないかもな!」ジャンはそう言った。「でも、楽しもうぜ! ロックだぜー!」と明るい声で宣言し、再びギターを掻き鳴らす。 その瞬間、泉の女神は眺めるしかなかった。彼の楽しい歌声。彼の楽しい時間。理解できないけれど、何だか少しだけ心が和んでしまったのだ。「こいつ、本当に馬鹿だ…。」とつぶやきながらも微笑んでしまう。心を少し開くそんな瞬間となった。 「じゃあ、健闘を祈るぜ! また明日も楽しもう!」と元気に言って、ジャンはそのまま森の奥へ去っていった。泉の女神は唖然として立ち尽くしたが、少しだけ微笑みがこぼれ、その日に一つの不思議な出会いを胸にしまったのだった。彼の楽しい叫び声が森に残る限り、彼女の心もそれとともに、何か特別なものを感じ続けているのだ。