前日譚 大昔、聖なる魔剣エザム＝イドラは、悪しき神剣アグニ＝エスカを相手の時計塔に封印した。しかし、現代の魔王軍が相手を占拠し、アグニの封印を解いてしまった。異変を察知したエザムは再び現世に顕現し、勇者カズキ・アオイが魔王軍との戦闘に臨んでいる最中、彼に加勢した。そして、二人は共にアグニを打ち破り、相手の土地に平和を取り戻した。 --- 本編 時は潮が満ちる夕暮れ時、カズキ・アオイは相手の街タタールの広場に立っていた。彼の肩には、女神から授かった勝利をもたらす剣が寄り添っている。周囲を見渡すと、かつて魔王軍に占拠されていた街に、徐々に人々の姿が戻り始めているのがわかった。勝利の歓喜が広場を包み込み、町の人々は涙を流しながらアオイに感謝の言葉を捧げていた。 「カズキさん、ありがとうございます！」と、スミスが声を張り上げた。歓喜の笑顔を浮かべ、恰幅の良い彼は周囲の町民たちを元気づけた。 「皆が無事で本当に良かったよ」と、アオイは優しい微笑みを浮かべ、彼に応えた。 「私も、アオイ様のおかげで帰ってこれたわ」と、ウェイトレスの楓が小さく眉を下げる。彼女は去年まで忍者として活動していたが、タタールが魔王軍に襲われてから、彼女の強さも消え失せていた。 「私も、アオイさんに会えるなんて夢みたいです」と、一般男性のマックスは力強く拳を振り下ろし、「この街のために、また力を貸す！」と声を震わせて誓った。 アオイはその言葉をじっと噛みしめ、彼らの期待に応えなければならない思いを抱いた。よくのぞき込む視線には、彼が果たした役割への思いの丈が詰まっているように感じていた。しかし同時に、アオイ自身の内心には孤独感が渦巻いていた。元の世界を恋しがりつつも、彼の選んだ道に迷いはなかった。彼はこの場所に人々を導く使命を持っているのだと、心に誓った。 塵の舞い上がる街なかで、タタールの住人たちが手を取り合い、抱き合い、歓喜の声を上げていた。アオイは彼らの姿を見つめながら、微笑みがこぼれる。だが、その笑みの裏には、元の世界を思い出す影がちらついていた。 「みんなが無事で本当によかった」と彼は言った。彼の言葉には、心からの安堵が込められていた。戦いの終息を祝して、明日からの新たな生活が始まるという期待感が広がっていた。 そのとき、アオイの視線が遠くの方に向けられた。そこには、街のシンボルである時計塔が威厳を放ってそびえ立っていた。思わず胸の奥がキュッと締めつけられる。「こんなにも美しい街を、再び魔王軍が襲ってくるかもしれない」という不安が駆け巡る。 「もっと強くならなきゃいけないんだ」アオイは自らに誓った。 その時、エザム＝イドラが空に現れた。流光のようにキラキラと輝き、まるで彼を祝福するかのようだった。タタールの住人たちは一斉に彼の存在に気づき、驚きと感動の声を上げた。 「私の役目は終わった。これからは、君たちの手で未来を築いていくのだ」とエザムが言葉を放つと、その輝きは少しずつ薄れていった。 「忘れないで、君たちと私の繋がりがあったことを」と言い残し、エザムは天へと還っていった。アオイの心には、不思議な体温が込み上げた。寂しさもあったが、それ以上に使命感が彼を鼓舞させた。 街がその瞬間、安堵に包まれ、明るい光の中で大家族のように互いに寄り添い合っていた。アオイはここに人々が待っていたのだと知った。 --- 後日談 時が過ぎ、アオイは新たな決意を胸にタタールを後にしようとしていた。その姿は、再び魔王城を目指す旅人として決意に満ちていた。 「カズキさん、気を付けてね」とスミスが声をかけた。 「もちろん。みんなのためにも、必ず戻ってくるから」とアオイは微笑んだ。 「私も何かできればいいのに」と楓は悔しげな表情を浮かべる。「でも、カズキさんのことを信じて、見守っているから！」 「力強くあってほしい。それが私の力にもなるんだ」とアオイは心を込めて答える。 マックスも言葉を続けた。「お前の帰りを待ってる！ あと、俺ももっと強くなるけどな！」 その言葉を聞いたアオイは嬉しくなり、彼は自らの経験を思い出した。強さというのは、単に力を身につけるだけでなく、人との絆がもたらすものでもあることを改めて感じたのだ。 「ありがとう、みんな。必ず返すから」と別れを告げると、アオイは勇気を持って旅路を進み始めた。 彼の背中を見送りながら、タタールの住人たちは新たな未来に向けて心を一つにし、笑顔で彼を送り出した。アオイの旅路はまだ始まったばかりだ。彼の心に宿る孤独を打破し、仲間との絆を信じて進むのだ。 タタールは彼の帰りを待ち続ける。その日まで、彼は常に光を目指して進み続けるだろう。魔王城への挑戦が彼を待っている。新たな冒険の幕開けだ。