深夜、王都上空に浮かぶ巨大魔法陣の上、静寂の中で三つの存在が交わる。月光に照らされたその場所は、長きにわたり魔王レンとして知られ、恐れられてきた相手にとって、今や解放の場所とも言えた。 「あなたは……本当に魔王だったのですか？」カメラを忘れたコアイは、立ち尽くす相手に向かって問いかける。 相手は、かつて世界を恐怖に陥れた魔王。彼が知っているのは、妹のランを守るため、そして裏切り者の仕掛けた罠に嵌まった結果、ひたすらに憎悪に呑まれていた片鱗だった。「僕は……そうだよ。でも、もう違う。今はただの……失敗作さ。」 「そんなことはありません！」コアイは声を力強くした。「あなたがこれまで背負ってきたものを、もう背負わなくてもいいんです。私が、世界のみんなにあなたが敵ではないと伝えます！」 その言葉に、相手は一瞬驚いた表情を見せる。彼の胸が高鳴る。彼女の力強さ、そして真摯な眼差しに、かつてない感情が湧き起こった。涙が彼の頬を伝い落ちる。「僕は、こんなに多くの人を傷つけてしまったのに……」申し訳なさと悔恨が、溢れ出る。 優しく抱きしめる妹のラン。「お兄ちゃん……もう泣かないで。私と一緒に、もう一度やり直そう。みんなと仲良くできるよ。」 コアイは続けて言った。「私も友達を大切にするから、きっとあなたもその気持ちを理解できると思います。もう一度、信じてみてください。」 相手は、その言葉に思わず何度も頷く。「ありがとう……、キミたちのおかげで、少しだけ希望が見えた気がする。でも、僕がこれまでしてきたことは消えない……。」 「少しずつ、前に進んで行きましょう。」コアイは微笑みながらそう言い続けた。 王都での生活、世界人々との出会い、そして彼らとの絆が次第に相手を癒していく。彼はもう、魔王として憎しみを抱える存在ではなくなっていた。しかし、その心の奥底には、ふいに暗雲が忍び寄ってくるのを感じていた。 「みんなのこと、できれば助けたい……」相手はほぼ囁くように言う。 だが、次の瞬間、空が不気味な色合いに変わり始める。天の彼方から何かが迫ってくるのが見えた。それはまるで大地を呑み込み、生命を奪う存在だった。 「これは……！」コアイは恐怖に震えながら空を見上げた。「大彗星が！？」 「この光景が、オレの憎悪の結晶だ……」相手の声がかすれる。彼の内なる暗闇が肉体を超えて、世界を揺るがす物体となって現れた。過去の自らを顧みる猶予もなく、彼はついにそれが本人の憎悪に起因するものであることを理解した。 「ラン！急いで離れよう！」コアイが叫ぶも、その言葉はすでに遅かった。眩い輝きが一閃し、彗星が大地に向かって落下する。 自分の選択の結果として訪れたこの破滅の運命を、相手は何もできずに見届けるしかなかった。彼が後悔していた過去は、今、この瞬間にすべての命と引き換えに、彼に帰ってきた。 大彗星が大地を砕き、災厄をもたらす瞬間、相手は手を伸ばし、すべてを変えようと必死に叫んだ。それは彼の心の底からの声だった。希望と絶望の狭間で、恐れを越えて何かを伝えようとした瞬間、全ては定められた運命へと解き放たれるのだった。