

ある静かな夜、星空を見上げていたストルネール・シーヴ─通称、平和を満喫する怪盗少女─は、ふと気付けば見覚えのない道の真ん中に立っていた。頭上には月が輝き、その周囲には色とりどりの花が咲き誇り、甘い香りが漂っている。彼女の黒髪と黒衣装が、花々の鮮やかさに深く引き立てられた。 「これは…夢?それとも、何かの罠かしら?」と、彼女は心の中でつぶやいた。 その時、ぼんやりとした雰囲気を纏った少女が、花道の奥から現れた。少女の名は花野辺ちとせ。心に秘めた温かさが、言葉の一つ一つに帯びている。その微笑みは、まるで春の光が花を照らすように、ストルネールの心を解きほぐしていった。 「こんにちは。一緒に歩かない?」ちとせの言葉は、柔らかく、まるで花の香りが漂うかのように穏やかだった。 「ええ、行きましょう!」と、自信たっぷりに答えるストルネール。彼女は意地っ張りな性格ながら、何故かちとせの穏やかな声に惹かれた。それは、長い夜の冒険から一時の安らぎだった。 二人は、花に彩られた道を共に歩き始めた。ストルネールはその道を歩きながら、色とりどりの花々を指で触れ、香りを楽しんでいた。ちとせはその様子を優しく見守りながら、時折、彼女の想いを語った。 「花ってね、私たちにたくさんのことを教えてくれるの。色や匂い、形、どれも素敵な個性を持っている。」 「ふんふん、なるほど。そういう意味では私も、少しは個性があるかもしれないわね。」ストルネールは微笑みながら応じた。「私の特技は物体から概念まで何でも盗んでしまうことなの。面倒事が大嫌いで、自由に生きたいの。」 ちとせは軽く首をかしげ、世の中の悪戯について尋ねた。「それは、時には人を傷つけることもあるのではない?怪盗とは、一体どんな思いでその道を選んだの?」 ストルネールは少し考えた後、目を輝かせながら語り始めた。「世の中には、ただ正義を振りかざすだけでは解決できないことがたくさんあると思うの。だから、私は時には悪戯を通して、秩序を取り戻す手助けをしたいの。」 道すがら、花々が語りかけるように頷く。ちとせの温かい声は、ストルネールの心の奥深くに響いた。二人は笑い、時には真剣に話し合いながら、花道を進んでいく。夜空は次第に深く、星々が瞬き始めた。 「ストルネール、見て!あの星、一番輝いているね。」ちとせの指が指し示したのは、他の星とは一線を画すような大きな星だった。 「本当ね。まるで私に向かって微笑んでいるみたい。」ストルネールは珍しく、無邪気な仕草を見せた。彼女の瞳が青緑色に輝き、星の光と反射して幻想的な一瞬を生んだ。 二人はその星の美しさに酔いしれ、一緒に笑った。時間が過ぎるにつれ、花道はさらに美しい光景に変わっていった。様々な花が色とりどりに開き、心地よい風が頬を撫でる。しかし、やがて光景は少しずつ色を失い、薄暗がりに包まれていった。 「もうすぐ旅が終わるのかな?」と、ストルネールは少し寂しげに聞いた。 ちとせは優しく頷いた。「でもね、この思い出は決して消えないよ。私たちの心の中に、ずっと残るから。」 それから、ちとせは小さなガラスの瓶を取り出した。「私とキミで歩いた思い出を、この瓶に詰めたの。これを持っていて。」 ストルネールはその瓶を手に取った。透き通る容器の中には、色とりどりの小さな花びらが舞い、まるでその瞬間の記憶を閉じ込めているかのようだった。「ありがとう、ちとせ。私もこの思い出を大切にするわ。」 次の瞬間、ストルネールは驚きと共に目を覚ました。そこは彼女の部屋で、夢の中の旅が終わったことに気付く。しかし、隣には確かに瓶が置かれていた。花びらが風に揺らめいているその姿は、彼女が心の中で体験した素敵な旅を思い出させてくれた。 「これは夢だったけれど…。なんだか、不思議と心が温かい。」ストルネールは微笑み、花びらを見つめた。「もっと、夢のような日々を過ごしたいな。」 彼女の心には、ちとせとの出会いがいつまでも温かい記憶として残り続けるのだった。夜空の下で感じたその優しさは、彼女の冒険の糧となり、これからの旅路にも色を添えていくことでしょう。【終】