護廷十三隊の五番隊、静謐に佇む小さな庭で、雛森桃と藍染惣右介の対峙が始まった。桃は自らを支えるものを見失い、隊長である藍染の存在以外に何も見えない。彼の美しい姿を前に、桃の心臓は激しく鼓動する。 「さあ、行こうか、雛森。」藍染の声は柔らかく、まるで甘いささやきのようだ。彼女はその声に心を打たれたが、同時に自らの運命を気にかけた。 「藍染隊長…。」彼女の小さな声が響く。しかし、その声が耳に届くころには、桃の目には不気味な光景が広がっていく。彼女の脳裏に浮かぶのは、隊長が今まさに敵として立ち向かってきているという錯覚だった。 「私は君を信じている。」藍染は微笑みながらゆっくりと刀を抜いた。その瞬間、桃の心の奥底で一つの決意が芽生えた。これが自分を守るための戦いだと、レッドホットの情熱が体中を駆け抜ける。 「解放、始解【飛梅】!弾けろ!」彼女は叫び、情感を込めて刀を振るった。刀身から放たれる火球が空気を切り裂き、藍染の目を捉える。だが、彼女が見ているのは、まるで別の世界の藍染。 彼は果たして自らの意志で動いているのか。桃は心の中で自問自答し、彼女の意識が錯覚に包まれる。「そんなことはない。これは私が藍染隊長を守るために戦っているの。」 火球が藍染を襲う瞬間、彼の姿は消失し、次の瞬間、目の前にいたのは別の者だった。桃はその者が藍染ではないことに気づくことなく、恐怖に打ちひしがれる。「これが…どうしたというの?何も見えていない。」 「君は本当に怖がっている。」藍染の声はどこからともなく響く。彼女の心を揺るがすようなその言葉に、桃は混乱し、さらに彼に対する恐れが募る。「この世界の真実を、受け入れるのだ。」 桃は再度力を込めた。「破道の三十一【赤火砲】!」詠唱が彼女の口から流れ出し、瞬く間に火球を喰らわせる。しかし、火球は藍染に届くことなく弾け、まるで彼を避けたかのように消えていった。 彼女の目には、藍染の姿が無数の幻影のように映り続ける。彼女は自分を取り戻そうと必死に叫ぶ。「これは…嘘だ!私の藍染隊長は、こんなことをするはずが…」 藍染は冷たく、しかし優しい笑みを浮かべる。「君がもたらした火は、そこにあるだけだ。それが現実ということを、理解しなさい。」 そして、彼が無詠唱で繰り出す技【黒棺】が、彼女の周りに現れた。黒い重力の窪みが彼女を包み込み、彼女は逃れることすらできない。肉体を捉えられ、心の中で叫び続ける。 「私は、私は藍染隊長を守る…!」その誓いも虚しく、圧倒的な力が、彼女という存在を覆い尽くす。全てが暗闇に包まれ、彼女の意識は崩れ去る。 藍染は微笑む。「お疲れ様だ、雛森さん。君の存在は、私の計画において無駄ではない。」 戦いは終わった。雛森桃はその戦の終焉を迎え、彼女が大切に思っていたものが壊れつつあることすら知らずに、藍染の影に沈んでいくのだった。彼女が見た現実は、全て藍染の手によるものだったのだ。