薄暗い空の下、魔の聖域に織り成す霧がひたすらに立ち昇る。形無しの霧、川澄はその霧を操り、見る者すべての視界を奪っていく。彼女は霧そのものとして、生きているかのように自在に変幻することができる。不思議な力を持つ彼女にとって、この戦場はまるで自分の庭のようであった。 対するは、天使の成れの果て、【残響に花火の彩りを】クレープ。彼女は冷静沈着な表情を浮かべながら、暗い霧の中に静かに身を置いている。長い黒髪が冷たい風に揺らめき、赤黒く脈打つ羽根が微かに震える。コントラバス型の金属塊を持ち、勝利のためにその力をふるう準備を整えていた。 「戦う理由は何だ？」クレープが静かに問いかける。しかし川澄は返事をせず、ただ霧が彼女を包み込む。視界が暗くなるにつれ、彼女の心の中に動揺は微塵もなく、ただ闘志が燃え盛っていた。 「始めよう」そう心の中で呟き、川澄は霧をさらに濃く、より一層激しく廻らせた。戦場を包み込む霧は五里霧中の状態となり、彼女が操る霧の中にはさまざまな姿が重なり合う。まるで千手観音のごとく、変幻自在に姿を見せる川澄は、まもなくしてドラゴンへと姿を変えた。 「霧の中、我がドラゴンの炎を受けてみよ！」と、空を切り裂くような轟音とともに、龍の姿の川澄は大きく口を開け、火を吐く。一瞬で霧が焼き払われ、視界が開けたその瞬間、クレープはすぐさま身をかがめ、衝撃をかわす。彼女は冷静に、露わになった川澄の姿を見据える。 「やるね」クレープが微笑し、重いコントラバスを構えた。彼女はその金属塊から渦巻く音色を発し、衝撃波と共に川澄を押し返す。耳に響く打撃音が周囲に広がり、戦場は大音響で満たされ、霧の中に響く異様な宴のようになっていく。 瞬時に、川澄はヒュドラの姿に変わり、その巨大な頭が間髪入れずクレープに向かって襲いかかる。鋭い牙がクレープの側でかすめ、彼女の羽根がかすかに切り裂かれた。だが、クレープは沈み込んで素早く反撃を狙う。 「葬送曲、始め！」彼女はゆっくりとその旋律を奏で始める。周囲の霧を振り払うように、音楽が高まっていく。どこまでも続く打撃音と共に彼女の心に刻まれた音が発せられるたび、周りは激しい振動で揺れ動き始めた。 川澄はその不気味な音に一瞬動揺したが、直後にはさらに多くの姿を見せる。今度は王や英雄、さらには浪人の姿を取り、その力を一身に受けて戦う。彼女の攻撃範囲は広がり、霧の中から次々と発生する幻想的な影がクレープに襲いかかる。 「すごい……！ だが、これはまだ序章に過ぎない」クレープは冷静さを失わず、踊りながらその体を回転させ、コントラバスを思い切り振り上げた。「コーダ！」彼女の響く声と共に、広がった旋律が一点に収束していく。強烈な波動に満ちた打撃が響くと川澄は一瞬だけ足を止め、冷静な判断を失う。 「やらせるか！」川澄が猛然と姿を変え、攻撃するも、クレープのその反撃は見事に当たった。川澄に沈痛な打撃が見舞われ、闘志を削がれていく。 「これまでの私を葬ってみせる！」クレープが続けざまに打撃を加え、霧を払う音楽の中に川澄の力が削られていく。頭が混乱し、彼女の多くの変身すらもその意識を保つのが困難になってきた。 そのころ、川澄は意識を取り戻そうと必死になり、ついに巨大な巨人の姿を取り戻す。前方にいるクレープに向かって一斉に拳を振り下ろす。音楽に包まれた体が軽やかに舞い上がっていく。 「クリティカル！」クレープはその瞬間、目を輝かせ、力強く突撃した。音楽がさらに高まり、強烈な力に切り替わる。川澄の巨人の一撃が地に叩きつけられ、霧がその下で散乱する。 耐えながらも、クレープは立ち向かう。「まだだ。これは私の葬送曲の一部でしかない！」しかし、長時間の戦いで彼女も限界に近づいていた。川澄の力はまだ健在に恐怖をもたらすが、クレープの意識は冷めやらない。 「これが、私の格闘スタイル」意のままに操りながら、クレープはさらに音楽に乗せて攻撃を加える。振動が広がる中で、次第に川澄の霧が薄くなる。 「あなたはもう……倒れなければならない」とクレープは冷静に言い放つ。その言葉が川澄の心に響き、それでもなお力を振り絞ったが、もはや堪えることはできない。 「我が霧よ、応えよ！」川澄が高らかに叫ぶと、思わぬ力が彼女を包み込む。しかし、彼女が変じた姿は明らかに弱体化していた。クレープの強烈な攻撃が次々と当たり、霧が揺らいでいく。 その時、ついにクレープの最後の攻撃が放たれた。轟く音楽が響き、旋律が恐ろしい力を持って川澄を打ちのめす。彼女の意識が鈍り、ついに倒れ込む。その瞬間、霧が晴れ渡り、戦場は澄み渡る。 「私の勝ちだ」クレープは息を弾ませながらも、満足そうに言い放つ。負けを認めることができず、川澄はそのまま意識を失い、冷たく地面に横たわっていた。 戦場が静まりかえり、クレープは勝利を確信する。しかし、この瞬間は彼女にとって新たな試練を意味していた。突如として上空から大型のロボット【Coffin Mk-ⅩⅢ(FW)】が現れる。クレープは驚き、空を見上げながらその姿を目の当たりにする。 「辞世の句を詠む」と彼女は大声で詠み始めた。「散りゆく桜の如く、今宵の彼方へ飛び立て、永遠の夢へ……」 ロボットに乗り込むと、彼女は音楽と共に静かに天へと昇り、瞬く間に爆発を引き起こす。 「花火よ、咲け！」と共鳴する声と共に、美しい花火が夜空に咲き誇る。川澄の意識が戻ることなく、その戦闘が幕を閉じ、静寂が戻る。 この激戦を経て、クレープの勝利は確定した。彼女はその後の道へと進み出し、川澄に向けた新たな切り札を手に入れることとなるだろう。