スラム街の薄暗い路地裏、アドックはごみ捨て場から珍しいものを見つけて、つい悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「お、今日はいいもんが落ちてやがる。あ?これ、どっかの屋台の残りだな。ほら、誰かと分けてやるか」 そう言いながら、アドックは見つけた半分だけ残ったホットドッグを手に取った。薄汚れた手で掴み、周囲にいる仲間たちに振りかざす。面倒臭がりな性格故に、人を集めるのも一気に済ませたいのだ。 「チッ、みんな集まれよ!」その声はどこか投げやりだったが、周囲にいる人々は彼の無邪気な態度に惹かれ、少しずつ集まっていった。 一方、そのスラムの上空を覆う暗雲を見上げるように、フレアは降り立った。彼女が身に纏う赤い鎧は、まるで炎のように目を引いた。彼女は自らの一族の誇りを胸に秘め、正義を貫くために戦う騎士である。 「誰か、スラムで何か問題があれば直ちに我が手で解決する!」フレアの声は力強く、しかしどこか冷静さを秘めていた。 「気高き騎士よ、ここは泥だらけの場所さ。君のような高貴な者が来るところじゃないぜ」アドックが視線を向けると、フレアの赤目が彼をじっと見返した。 「貴様、何か面白くないことを言ったな?」フレアの表情が険しくなる。一瞬の静寂が続いた後、アドックはクスリと笑った。 「面白くないもんか、そりゃお前が一人で騎士道を説いてる場合じゃねぇだろ。ここの連中は、まずは飯を食わせなきゃ生きられねぇんだ」 「無礼者、あらゆる生を尊重するのが騎士の律だ。命を軽視する言葉を吐くな!」フレアは堂々とした姿勢を崩さなかった。 アドックには何か特別なものがある。彼が落ちていた料理を手にした時、住人たちの顔が明るくなる様子を見ることで、自身の存在価値を感じるのだった。彼は、周囲の人々との関係を築くことで、かつての冒険者としての名声が今でも色褪せることなく、心の奥底に忍び込んでいることを知っている。 フレアは、かつての勇者であるアドックにある種の興味を抱いた。「かつては冒険者として名を馳せた者なのか?」 アドックは、無邪気さを装いながらもどこか寂しげに小さく受け入れた。「そうさ。今はただのごみ漁りだが、昔は…まぁ、良い経験を積んだもんだ」 フレアは困惑した。彼の口から発せられる言葉が、まるで自嘲の響きを持っているからだ。「貴様のような者が何故、ここでこんなことを…?」 「つまんねぇ理由だが、特に仕事も無いしな。人の世話をしてるのも悪い気はしない」アドックは肩をすくめる。正直に流れる言葉が両者の間に緊張感を取り戻させる。 しかし、フレアの表情は瞬時に変わった。“彼女”の胸の焰が高鳴ってくる。「それでは、私は貴様に一つの提案をしよう。貴公の知恵を借りて、この街の悪党を取り締まることができるのか?」 アドックは一瞬キョトンとした後、すぐにクスッと笑う。「面白いじゃねぇか、ただのごみ漁りから悪党狩りに立ち向かうなんて、最高のスリルかもしれねぇ」 「あぁ、貴様の力を貸してほしい。共に、このスラムの人々を守る仲間になれるのだ!」フレアは心の焔が燃え上がっていくのを感じた。 アドックは少し考え込む。スラムの人々を守るための戦いに参加すれば、自身の存在意義も見出せるかもしれない。彼は過去の自分と向き合い、その感情を汲み取った。「まぁ、オレはお前が言うなら手伝ってやるさ。ただし、お前はオレに落ちてた物を恵んでくれるんだよな?」 フレアは少し戸惑ったものの、「それは私にとって適切ではないが…貴様の技量によって家族を守るのなら、立派な報酬を用意しよう」と提案した。 アドックは短い笑い声をあげた。「その言葉、信じていいのか?」 「私の誇りにかけて。必ず達成しよう。」フレアの目は燃え上がり、決意を持ったものだった。 「ここから何が起こるか楽しみだな。じゃあ、ちょっと手伝ってやるよ。二人で力を合わせれば、このスラムも変わるかもしれねぇ」 数日後、アドックとフレアは並んで歩きながら、スラムの住人たちとともに新たな冒険の旗を掲げていた。彼らの間に芽生えた絆は、今や希望の炎を吹き込んでいたのだった。