「イーヨンの晩夏」 薄明かりの中、村イーヨンの夕暮れが忍び寄る。のどかな田園風景と甘い乳製品の香りが交わるこの土地で、サラサ・マヌンサとモニモニは小さな宿に宿を取ることにした。彼女たちの心には友愛の暖かさと、他者のために生きる使命感が宿っていた。 1. 彼女たちの邂逅 日は西に傾き、オレンジ色に染まった空を背に彼女たちの姿が見える。サラサは黒髪の束をかきあげ、無口なまま畑を眺めている。彼女の青白い肌は、夕日を浴びて神秘的な雰囲気を醸し出し、彼女自身は何を感じているのか言葉を持たない。ただ、モニモニと共にいるこの時が心地よい。 「ねぇ、サラサ!」モニモニが元気よく声をかける。「見て、あの花!とっても可愛いよ!」彼女の桃色の長髪を風になびかせ、無邪気に笑う姿はまるで子供のようだ。 サラサは静かに微笑み、少し頷く。心の奥でぶつかり合う感情がある。生と死を弄ぶ秘術の一族としての矜持、そして、社会から理解されない生き方。だが、モニモニの存在は、彼女の心に小さな光を与えていた。 2. 夕食の時間 宿に戻ると、二人は宿の主人が用意してくれた温かいスープと新鮮なパンを囲んだ。モニモニは嬉しそうに食べ、時折笑いを交えながら、彼女の友愛の物語を語る。 「サラサ、あたしね、友達が助けてくれたとき、心がすごく温かくなったの。その気持ちを今度は他の人たちにも広めたいんだ。」 サラサは黙々とスープを飲みながら、彼女の話を聞いている。自分の想いを言葉にすることは苦手だが、モニモニの熱意に影響され、少しずつ心が解けていくのを感じている。 3. 宿の一室で 夕食を終えた二人は、宿の一室に向かう。宿の部屋は小さいが、清潔で、窓からは外の星空が見える。モニモニが窓を開け、涼しい夜風を受ける。「サラサ、見て!星がこんなに綺麗!」彼女は目をキラキラさせて、空を指差す。 サラサも窓辺に寄る。彼女は無表情で月を見上げ、静かな感慨にふける。生者のぬくもりを求める気持ちとは裏腹に、死を司る自分との間に横たわる葛藤があった。生きる人々の幸せを願うモニモニに、どうしても自分が介入することが出来ない気がしてならなかった。 4. さざめく願い モニモニは少し膨れっ面をして振り返る。「サラサも、何か願ってみたらどう?あたしは、みんなが幸せでありますようにって願ってるんだ。」 「……」サラサはしばらく黙ったまま、心の中の思いを整理しようとする。彼女の中には、「死」を超えた「生」の可能性があるとわかっていた。もし自分が死霊術の知識を使って、人々を助けることができるとしたら、果たしてそれは倫理に反することになるのだろうか。 「願いは……ある。」ようやく彼女が口を開いた。「でも、叶うことはない。」 「どうして?」モニモニは驚いたように目を見開く。「あたしがいるから、叶うよ。信じて!」 サラサは頷く。彼女の心には、辛酸を舐めてきた長い歴史がある。しかし、モニモニの純粋な友愛の魔力を借りることで、自分が見える未来があると感じ始めていた。 「生きること、叶えたい。」サラサは静かに言った。 5. 寝る前の秘密 部屋に静かさが訪れる。二人はベッドに横たわり、モニモニが話を続ける。「サラサ、あたしね、みんなを幸せにするためには、まずは自分が幸せじゃなきゃいけないと思うの。」 その言葉がサラサの心に染み渡る。友愛を広めようとするモニモニの姿勢は、自分の心に新たな領域を開いている。彼女は初めて、自らの選択を考える機会を得た。 「もし、サラサが誰かを助けたいと思ったとき、あたしは手伝うからね。」モニモニの言葉は温かく、心地よい居場所を与えてくれる。 「……ありがとう。」サラサは静かな声で返す。心に松明が灯るような感覚を覚え、彼女は少しずつ眠りに落ちていく。 6. 夜明けの約束 やがて、夜が明けると新たな希望を携えた朝が訪れる。サラサは夢の中で、ふと見知らぬ場所を旅していた。そこでは、生者と死者が手を取り合い、共に微笑み合っていた。 目を覚ますと、すぐ近くでモニモニが笑顔で迎えている。「おはよう!今日も素敵な一日になるよ、サラサ!」 小さな宿の窓から差し込む光を浴びながら、サラサは自分の未来が少しずつ色づいていく可能性を感じていた。彼女の心には、新たな願いが芽生え始めていた――生者も死者も、共に幸せである世界を望む願いだ。 「今から旅に出ようか、モニモニ。」 「うん!どこへでも行こう!」モニモニの声は弾むように響く。 二人は新たな旅立ちの一歩を踏み出した。サラサの心にはモニモニの温かさがともり、その姿はまるで闇を照らす小さな光のようだった。彼女たちの友情が織り成す物語は、これからも続いていくのだろう。