影の静寂に包まれた深夜の競売会場、そこには奇妙な緊張と興奮が満ちていた。天井高くで螺旋状に取り巻く薄暗い影が揺れ、月光のように差し込む斑点が床に落ちる。その中央には、赤髪の小柄な少女、【競売の魔女】ガベルが楽しげな笑みを浮かべていた。 彼女の手には小さな魔法の杖があり、その先から光の粒子がちらちらと舞い落ちる。オークションの品々はすでにすべて売り払われているが、彼女の目は輝き放ちながら新たな「品」を待ちわびている。 そのとき、影の中から静かな気配が近づいた。黒糸のような影がゆっくりと動き、闇の中から姿を現したのは、精悍な黒髪と筋肉質な体を持つ、影と夜の守護者——リカントロープだった。 ガベルがその姿に気づき、にっこりと笑う。 「おはよう、相手さん。今日はまた素敵な品の数々を楽しみにしてたわ。でもね、私ね、もうこれ以上に品物は必要ないの。全部売り払ったから、今日はむしろあなたを叱る番かしら？」 相手、リカントロープは静かにその場に立ち、しばらくこちらを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。 「きみ、ガベル。私の私物について勝手に騒ぎたてるのはやめてくれ。特に、昨日君が私の品を勝手にオークションに出品したなんて、どういうつもりだ？」 ガベルは驚きながらも、楽しげな調子を崩さずに答えた。 「あら、ごめんなさいね。だって、あなたの品物ってとっても魅力的じゃない。見てて飽きないわ。実は、一つだけ特別な品物があったのよ。そこにある【銀狼】の剣、見とれてしまったわ。そこの見た目麗しい銀の爪牙、あれにね、私はもう、入札しちゃったの。」 言葉を終えると、彼女は笑いながら指さしたのは、月明かりのような銀色の刃を持つ剣だった。 相手が眉をひそめる。 「【銀狼】の剣については、私の私物だ……」 その瞬間、周囲の空気がピンと張り詰め、闇の中から彼の声が静かに響いた。 「見ての通り、きみ。私はこの剣に深い思い出を持っている。勝手に出品されたら困る」 ガベルはちょっと頬を膨らませながらも、また楽しそうに笑った。 「そんなに真剣にならないの。私の楽しみは、あなたの品物たちを見ること、そして、皆を驚かすことなのよ。それに、これも私の魔法の一部よ。品物に合わせて大量の購入希望者を召喚する【競売魔法】を使えば、誰でもすぐに入札しちゃうの。そうすると、みんながハイテンションになるのが楽しいのよ。」 相手は静かに、しかし鋭い瞳で彼女を見つめる。 「きみ、その魔法には危険が伴う。もしも、誰かが知らずに危険な品を出品してしまったら……それは不幸なことになる」 ガベルはにこにこと笑いながら答えた。 「大丈夫よ。私はいつも品物に愛情を込めてるもの。それに、誰もこんな楽しい競売に参加できるわけがないじゃない。これも私の幸せのための魔法なの。」 彼女がそういうと、不意に周囲の影が揺れ動き、まるで空気が震えたかのような静寂が訪れる。 だが、その静かな影の破片の中に、もう一人の守護者—inいつもと異なる場所から、静かな声が響いた。 「ガベル、君のやり方は時に危険だ。私の私物を勝手に出品されて……それは許されない。」 その声の主は、影の深淵から現れた相手、リカントロープだった。彼の瞳が月光のように輝き、その凛とした雰囲気が会場全体に重苦しい緊張をもたらす。 彼はゆっくりと、しかし確かにこちらに歩み寄る。 「 ricordare sempre che ciò che è mio rimane mio.」(私は覚えている。私のものは私のものであると。) ガベルは一瞬、真面目な表情を見せたが、すぐにまたいたずらっぽく笑った。 「まあまあ、あなたはそんなに頑固じゃなくていいのよ。私だってもう済ませたの。だって、品は売り切れちゃったから。全部売ったんだから、今日はあなたにちょっとしたお仕置きとお話をしてるだけよ。」 リカントロープは微笑を崩さず、静かに答えた。 「いつも君は楽しいけれど、その行動の裏には人の気持ちを尊重することも大切だ。」 ガベルは照れくさそうに横を向きながらも、ふふっと笑った。 「わかってるわ。でも、こうして遊ぶのも悪くないじゃない。魔法の力も私の楽しみの一つなの。きみも、もう少し私のことを信じて、楽しんでもいいのよ？」 そのとき、闇の中にまた静かに影が伸び、夜と夢の境界線が曖昧になる。二人の守護者と魔女の静かな戦いは、いったん終わりを告げる。しかし、その背景には確かな友情と信頼の火花が燃え続けていた。 やがて、空に浮かぶ満月が、この夜の出来事を見守るようにその光を倍増させた。 結局、誰も傷つかず、彼らの間にはまた新たな絆が芽生えていったのだった。