月明かりが静かに降り注ぐ、暗い森の中。木々の葉の間から洩れる光は、まるでイルチの薄暗い心の様を映し出すかのようだった。彼女、暗い流血イルチは、黒いフードを被り、真っ白な肌と赤色の瞳を輝かせながら、うすら寒い空気に満ちた夜の静寂を堪能していた。しかし、その心の底には渇望が渦巻いている。「妾は日陰者じゃ……じゃから、主の血を少しは分けてはくれぬか……？」その言葉は、まるで影のように、所々で希望を失った彼女の深い孤独を感じさせた。 数メートル先には、異能者殺しの飛鳥綺礼が立っていた。彼女はただ静かに、周囲の変化に目を配り、鋭い気配を感じ取る。フードの影から覗く黒緑の瞳が、イルチの動きを捉えた。「どんな生物も殴れば死ぬ。君もそうだろう？」その冷たい言葉には、無機質な響きがあった。彼女は、戦いの準備を整え、静かに動きを待つ。 「妾は渇望しているのじゃ……」イルチは心の内を吐露するように、蛭を従えた手を前にかざすと、視線を強く飛鳥に向けた。蛭がその黒い体表を震わせ、吸血の準備を整える。イルチは、飛びかかるように疾走し、その小さな体からは思いも寄らぬスピードを発揮する。「吸血、させてくれ！」 瞬間、イルチは飛鳥に向かってアクロバティックに飛び込む。しかし、飛鳥はそれに冷静に反応し、瞬時に横へとステップを踏んだ。イルチの動きは繊細で美しかったが、飛鳥の身体能力は正確無比だ。「なかなかやるじゃないか」とつぶやきながら、飛鳥はイルチの動きに応じて反撃に出る。その一撃は速く重い。彼女の拳がイルチの腹に叩き込まれ、その衝撃は彼女の身体を貫いた。 “グッ・・・”と呆然とするイルチの口から、かすかな悲鳴が漏れる。彼女の白い肌には、一瞬で青あざが広がり、痛みが体中を走り抜けた。「妾はまだ、終わっていない！」と心の底から叫びながら、再び蛭を飛ばす。蛭は急速に飛び、飛鳥の腕に吸い付いた。視覚的な変化—蛭が吸血することで、飛鳥の身体から力が奪われていく。イルチはその瞬間、自身も感じる血の渇望が少しだけ癒されるのを感じた。 「何をしている！ 吸え、もっと吸え！」イルチは高揚感に満ち、蛭が吸血している様を目に焼き付け、続けざまに飛鳥に襲いかかっていく。飛鳥は蛭の動きに注意を払いながら、後ろへ跳び、強烈なキックを繰り出した。イルチはその攻撃をかわすことには成功したものの、飛鳥の俊敏な反応には鈍さが見えた瞬間があった。「その程度じゃ、私には勝てない」と冷たく言い放つ飛鳥の声が響く。 イルチの内部に渦巻く血への欲望が、ますます刺激されていく。そして、イルチはその渇望から目覚めるように、ひとつの決意を抱く。「妾は主の血を求めんなら、吸血する力を発揮しなくては……！」彼女は持てる全てをぶつけるつもりで、再び蛭を集結させる。彼女の意志の力によって、蛭たちは巨大な腕状に変わり、迫る巨大な影が飛鳥を捕らえようとする。「欲し、渇望せよ！」 その瞬間、飛鳥は一瞬の隙を見逃さず、イルチの持つ異能の発動を封じるべく突進する。素早く彼女に接近し、触れた瞬間、イルチの中に潜む異能は消えた。「撤去—! これで君は何もできない。」イライラするように飛鳥が言い放つ。その声の響きは、夜の静寂を引き裂く。イルチは絶望感に苛まれる。「なぜ、なぜ妾は負けるのじゃ……！」 核心に迫れるスコアではなかった。飛鳥は冷静に、イルチの力が完全に封じられた様を楽しむように見下ろす。その美形の顔には、全くの無表情に近かったが、目の中には確かな勝ち誇りがあった。「君の努力は無駄だ」と一言つぶやくと、力強い拳がイルチの顔面を直撃した。衝撃が走り、彼女の身体は宙に舞い上がり、地面に叩きつけられた。 “これが、私の結末なのか……”彼女は思考が遠のき、視界が暗くなる中で内なる渇望が満たされることなく消え去っていく。自らの血を求める孤独な欲望は、もう彼女のものではなかった。 戦闘が繰り広げられた森は、今や二人の攻撃によって荒れ果て、木々や草花が引き裂かれ、地面にひびが入っていた。数々の影響を受けて悴んだ空気が流れている。そして、勝者、飛鳥綺礼は静かにその場を後にした。彼女は最後の勝ち誇りを感じながら、何事もなかったかのように闇へと消えていった。 イルチは、孤独とともに惨めに倒れ、彼女の欲望の渦は永遠に消え去ることはなかった。敗北の理由は明白だ。彼女の渇望は、彼女自身の手では解決できない問題だったのだから。