禁忌の死術士、サラサ・マヌンサは、薄暗い森の奥深くにひっそりと立っていた。彼女の肩からは、黒髪が垂れ、青白い肌が薄暗い光に映える。幼児体型の彼女は、時折降りしきる木々の雨やさざめく風に耳を澄ましつつ、無言のまま周囲の空気を感じ取っていた。 その時、彼女は小さな気配を感じた。翡翠色の小鳥、華やかな羽根を持つその存在が、彼女の視線の先に現れた。小鸟は優雅に空を舞い、サラサの周りを幾度も回りながら、その美しい鳴き声で何かを伝えようとしている。サラサは気に留めることなく、死霊術の準備に取り掛かることにした。 彼女が使用する「亡霊使役」の秘術は、彼女の長い間の修練の賜物だった。青白い手で髑髏の杖を強く握りしめ、心の中で暗誦する。すると、無数の霊魂が彼女の周囲に集まり、静かに舞い上がる。小鳥は不安げに鳴いたが、サラサはその声に耳を貸さず、集中を続けた。 「無数の霊魂よ、我が命ずる。敵の動きを封じよ。」 彷彿とする声で彼女が命令すると、霊魂たちは音もなく飛び散り、森の深部へと消えていった。サラサはその行動に満足し、次に「骸兵召喚」の呪文を唱えることにした。相手が潜んでいると思しき場所で、祝福された死体たちの魂を呼び起こす。彼女の意識の中で、骸骨兵士たちが次々と蘇り、周囲を警戒しながら並んだ。 その時、小鳥は興味を示したのか、サラサの肩に留まった。彼女はその瞬間、心の中に温かい感覚を抱いた。小鳥は無言のまま彼女を見つめ、そしてその言葉の代わりにささやくような声で鳴いた。「ピッ」。まるで彼女に対する褒め言葉のように感じられた。 「私の技は、恐れられるものかもしれないが」と、内なる声がサラサの頭の中をかすめる。「それでも、見守る者もいるのだと。」サラサは薄汚れたローブの裾をさりげなく整えながら、彼女の心に湧き上がる暖かさに驚いていた。 小鳥はその後、宙を舞い、再びスリリングに鳴く。「ピィーッピョ」。サラサは無表情で見つめるが、内心ではその自由な動きに少しだけ羨ましさを覚える。彼女はいつも自分の力を重んじ、孤独の中で死と陰影の道を歩んできた。だが、この小鳥との出会いが、一瞬だけでも心のどこかに柔らかい光を与えたのだ。 サラサはその瞬間に気づく。幼少の頃より、この力が恐れられるものであることは知っている。しかし、死霊術士としての彼女の道を選んだ自分に、無駄ではない瞬間があったのではないかと。小鳥、あなたの存在は、私に何かを教えてくれるかもしれない。 その時、頭の中にフラッシュバックしてくる場面。彼女の家族は自らの呪いから逃れることができず、同じ宿命のもとに亡くなった。彼女一人だけが生き残り、その苦しみに耐えながら、孤独な道を歩んでいる。亡者の命を利用し、己の目的のために仕えさせることに意味を見出そうとしていた。 サラサは小鳥に目を移し、何か思いを伝えようとした。しかし言葉は出ず、その瞬間、彼女はただやわらかな視線を向けていた。もしかしたら、この小さな生命が、彼女にかけられた運命の根源でもあるのかもしれないと。 更なる不思議な事が起こる。小鳥は翅を広げ、身体を軽やかに舞わしながら、サラサの周囲をぐるりと回る。彼女はただその動きに目を奪われ、心の中に焦がれるものを感じから、静かに瞳を閉じる。小鳥の鳴き声が耳に心地よく響く。「ピピピピッ」。何とも言えない優しさに包み込まれるような、幻のような感覚が広がっていく。 時が経つにつれ、サラサは小鳥と共に過ごすことに心地良さを感じていた。死霊術士としての辛さや孤独感が薄れ、小鳥と向き合う中で、新たな何かが芽生えている気がした。彼女の心の奥底から、少しずつ響いてくる。それは、死と生の境界を超えて得ることができる尊さなのかもしれない。 「私一人でも生き続ければ、意味がある。」 小鳥との時間が、彼女の心を少しずつ開いていく。「命は、必ず死の向こう側にある。」それを分かち合うべき相手がいるのなら、たとえそれが小さな鳥だとしても。サラサはその思いを胸に秘め、自分の道を歩む意志を新たにした。 翡翠色の小鳥は、サラサの肩から離れ、軽やかに空へと舞い上がる。そして、彼女に向かって一度振り返り、再び森の奥深くへと飛び去った。その姿が消えてしまう時、サラサは心に秘めていた言葉をつぶやく。「また会えるといいな。」 空に舞った小鳥の姿が、小さな光となって彼女の心に留まる。サラサは再び髑髏の杖を握りしめ、死霊術士としての役割を果たすために進む。だが、彼女の中には、以前には無かった小さな希望が生まれ始めていた。生と死を弄ぶ力に加え、小鳥との出会いが新たな道を示しているように感じられたのだ。 翡翠色の小鳥は、サラサの心の中に、死霊術士としての孤独をほんの少しだけ和らげてくれる存在となった。彼女はその感情を胸に秘めながら、再び森の奥深くへと歩みを進めた。