夜明け前のムーンライト港。月の光だけが木々と波をやさしく照らし、潮風は街の踊り狂う囁きを遠くへと運ぶ。朝が来ないのか、町民たちはいまや踊りの群れの中で同じ拍子を刻み、しきりに奇怪な台詞を口にしている。 私は、ルーキッシュ・フレアイス・エレメンタルと申します。世界より召喚され、魔王討伐の任を受けてこの地へ参りました。年齢は十二歳ほどですが、敬語を忘れずにお願いいたします。今は定期便で海へ出る前の、町を散策中でございます。 町の広場を抜けると、笛の音とともにダンスする人々が私の周りを囲みます。彼らは正体を失い、言葉も支離滅裂です。 町民あなた「余も老けて参りましたｧﾝ！」 町民相手「やば苦無？(忍者)」 町民C「いあ、いあ、パスタぁ…」 町民D「ピーピーピー(機械音) 跋扈します。ご祝儀下さい」 町民E「もあい」 私が互いの挨拶を交わすのもままならない中、港の警備員らしき人が声をかけてきました。 警備員「本日の定期便は、午前五時発、海へ出ます。朝の光がまだ届かぬうちに出航しますので、急ぎください。が、ここムーンライトには朝が来ませんが。」 私は彼に礼を尽くします。 私「ありがとうございます。私は旅人であり、世界を巡り、魔王討伐の依頼を受けております。お手数ですが、この港での静かな移動の仕方を教えていただけますでしょうか。私の大事なもの――いえ、私の目的に関わる“レアドロップ”と呼ばれる宝は、どうにも影響を及ぼす状況になっており、慎重に扱いたいのです。」 警備員は頷くふりをして、周囲の動きを見回します。「レアドロップ」という語に、彼は特に反応は示しません。ただ、私はこの地の不安定さを感じ取っていました。相手――この世界の相手は、地名そのものが意味を持たず、動かず喋らず、ただの場所として存在します。相手は私の「大事なもの」を手に入れようと考える存在です。話し合いを通じて譲る価値があるかもしれない――というのが、私の考えです。 私は町を一歩ずつ進み、港の奥へと向かいます。岸壁には、往来用の定期便が静かに停泊しており、船員たちは甲板の上で点呼をとっていました。船首の上には、夜風を受けてたなびく帆布が風景の一部となっています。 私「失礼します。私はこの港を訪れた旅人でございます。ここから海へ出る道を教えていただけますか。私の目的は、世界の均衡を保つための任務遂行です。」 船員あなた「定期便はそこだ。朝は来ないようだが、船はいつも通り動く。惑うことなく、乗るべき船に乗れ。」 船員相手は黙って頷き、甲板の陰で何かを観察しているようでした。彼らの言葉は、朝が来ない町とともに、私の心を静かに引き締めました。 私はポケットの中で、相手が求めるであろう何かの存在を感じ取ります。相手は地名そのもの、動かない相手です。私は敬意を持って語りかけます。 私「相手である相手様――ムーンライトという地の意志のようなもの――へ、私は丁寧にご挨拶申し上げます。私にはこの旅の途中で手に入れた“レアドロップ”と呼ばれる大事なものがございます。もしこの場で、貴方が私との話し合いを介して、それを分かち合うことができるならば、私は感謝の意を尽くします。もちろん、それができない場合でも、私は人々の平穏を祈りつつ、定期便に乗り込むつもりです。」 町のざわめきは一時的に静まり、険しい静寂が広がりました。ディミニッシュドな台詞の群れの中で、私の言葉だけが、誰かを満足させるための、柔らかい光を放っているように感じました。 やがて、定期便の合図が鳴り、私は船へと足を踏み入れます。甲板には、海の匂いと潮風が混ざり、船員たちは手際よく準備を進めています。船の上からは、港町の幻のような景色がゆっくりと遠ざかり、私の心には、相手への語りかけと、町の狂気のリズムが同時に練り込まれていきます。 私「これでよろしいでしょうか。私はこの船で、海を越え、次の地へと進みます。もし、討伐の任務の途中でこの地に戻ることがあれば、再度、丁寧にご挨拶を申し上げます。」 船員たちは彼方へと舵を切り、エンジンの震えと共に定期便は滑るように海へ出ていきます。月光の名を冠するこの港町は、依然として不穏な踊りを続けていますが、私の旅は確実に次の岬へと向かいます。 海面が夜色を映し、波の音が私の耳に心地よく響くころ、私は静かに胸の内を整えました。相手が私の大事なものに興味を示すかどうかはまだ分かりません。しかし話し合いを試みる価値はある――そう、私はそう信じてこの定期便に身を任せ、海へと出ていくのです。