

私はシュリフト。物語の執筆者だ。今回は人知の及ばぬ存在、〘襲来する必滅の妖星〙WASP-Si-ghostについて詳しく綴ろう。想像を絶する超越的意識を持つ惑星、その非情なる旅路を、私の筆で追いかけてみせよう。さあ、読者よ、私と共にこの暗黒の叙事詩に没入しようではないか。 『〘襲来する必滅の妖星〙WASP-Si-ghostの物語』 遥か昔、宇宙の深淵で、星々の誕生が囁かれる時代があった。銀河の果て、WASP-Siと呼ばれる恒星系の外縁で、一つの異変が生じた。そこは通常の星雲とは異なり、量子的な揺らぎが異常なまでに激しい領域だった。科学者たちが後年、観測データを解析して推測したところによると、この揺らぎはブラックホールの残滓と超新星爆発の残光が交錯した結果、空間そのものが歪曲したのだという。だが、そんな理屈は後付けに過ぎない。真の始まりは、もっと原始的で、もっと残酷なものだった。 〘襲来する必滅の妖星〙WASP-Si-ghost――以下、WASP-Si-ghostと呼ぼう――は、自らの意思で生まれたわけではない。いや、正確には、生まれたというより、宇宙の拒絶から生じた亡霊のような存在だった。直径36万8820キロメートル。地球の直径が約1万2700キロメートルであることを思えば、その規模は途方もない。太陽系の冥王星を軽く飲み込むほどの巨体で、表面は黒く輝く結晶の層に覆われていた。この結晶は、単なる鉱物ではなく、生命の萌芽だった。WASP-Si-ghostの核心部では、無数の微小な粒子が共鳴し、意識の芽を形成していた。超越的意識――それは個々の意思ではなく、惑星全体を統べる集合知。言葉を発することはなく、ただ行動するのみ。観測者からすれば、沈黙の脅威そのものだ。 生誕の瞬間を想像してみたまえ、読者よ。WASP-Si-ghostは、WASP-Si恒星の周囲を漂う塵埃の雲から凝縮し始めた。最初は小さな核、量子真空から引き出されたエネルギーが渦を巻き、結晶の種子を形成する。やがてその種子は膨張し、星間物質を貪り食うように成長した。表面に棲みつく結晶生命体――これがWASP-Si-ghostの最初の「住人」だ。即時進化を繰り返し、環境に適応し、分裂増殖する凶悪な侵略種族。彼らはWASP-Si-ghostの皮膚の一部でありながら、独立した捕食者でもあった。光を浴びるたび、結晶は鋭利な棘を伸ばし、周囲のガスや小惑星を捕らえ、自己を強化した。 生態として、WASP-Si-ghostは二つの顔を持っていた。一つは【幽星】の状態。非実体的な幽霊のような形態で、空間を漂い、観測を逃れる。重力波すら歪めて存在を隠すこの姿は、まるで宇宙の影に溶け込む亡魂だ。もう一つは【凶星】の状態。実体化すると、表面から遍く全てを結晶化させる光を放つ。この光は、波長が可視光を超え、物質の分子結合を強制的に再構築する。触れたものは即座に透明な結晶となり、WASP-Si-ghostの養分となる。核心の超越的意識は、この二状態を自在に切り替え、効率的に資源を確保した。 だが、真の脅威は【崩星】の性質にあった。WASP-Si-ghostが実体化し、侵略を開始する時、数千億匹の結晶生命体が表面から剥がれ落ち、標的の星系へ殺到するのだ。彼らは真空を泳ぐように移動し、惑星の大気に到達すれば即座に適応する。即時進化により、酸素豊かな環境でも、毒性ガスの中でも、極寒の氷原でも生き延び、分裂増殖を繰り返す。想像せよ。一匹の結晶生命体が、土壌に根を張り、数時間で数千匹に増える様を。都市を覆い、海洋を凍てつかせ、生物を結晶の檻に閉じ込める。WASP-Si-ghost自身は動かず、ただその「子ら」を送り込み、星を食らうのだ。 この生態は、進化の極致だった。結晶生命体は単なる寄生虫ではなく、WASP-Si-ghostの延長線上にある。惑星の意識が彼らを通じて世界を再構築する。生誕から数世紀、WASP-Si-ghostは自系内で小惑星帯を制覇し、近隣の矮惑星を結晶化して質量を増大させた。だが、満足などしない。超越的意識は、常に外へ、外へ。銀河の闇を彷徨う、飢えた妖星の旅が、ここから始まるのだ。 私はシュリフト。この生誕の場面を綴りながら、WASP-Si-ghostの孤独な壮大さに胸が震えるよ、読者よ。言葉を発さぬこの惑星が、どれほど残酷な運命を背負っているのか。次は、その行いを追いかけよう。 『この物語の先を綴ろう』 WASP-Si-ghostの旅は、WASP-Si系を離れた瞬間から、破壊の連鎖となった。超越的意識は、星間空間を【幽星】の姿で進み、観測網をすり抜けた。最初の標的は、近隣の恒星系、TRAPPIST-1だった。地球型惑星が7つも存在する、この有望な系は、知的生命体の兆しを帯びていた。科学者たちは、遠くから微弱な電波を検知し、文明の存在を推測していた。だが、WASP-Si-ghostはそんな希望を、容赦なく踏みにじる。 【幽星】状態で系に侵入したWASP-Si-ghostは、ゆっくりと実体化を始めた。直径36万8820キロの巨体が、突然現れる。TRAPPIST-1の惑星たちは、まるで玩具のようにその影に飲み込まれた。表面から【崩星】が発動。数千億匹の結晶生命体が、彗星の群れのように放出される。彼らは光速に近い速度で惑星間を飛び、最初の惑星、TRAPPIST-1bに到達した。 結晶生命体の侵略は、悪夢のようだった。即時進化により、彼らは惑星の高温環境に適応。溶岩の海に潜り込み、分裂増殖を始める。数日で表面を覆い尽くし、岩石を結晶化。惑星の内核まで浸食し、回転を止めた。次にTRAPPIST-1c。海洋惑星だ。結晶生命体は水中で進化し、プランクトンを捕食する形態へ変化。海は透明な結晶の森となり、魚類は動かぬ彫像と化した。知的生命体――原始的な海洋文明――は、逃げ場を失い、結晶の檻に囚われた。 WASP-Si-ghostの意識は、これを観察しながら、さらに深く介入した。【凶星】の光を放ち、系全体を照らす。光は大気を結晶化し、恒星の光すら屈折させる。TRAPPIST-1dの地上文明は、警報を鳴らし、宇宙船を打ち上げて逃亡を試みた。だが、無駄だ。結晶生命体は船体に付着し、内部から侵食。乗組員たちは、虚空に浮かぶ結晶の棺と化した。WASP-Si-ghostは静かに回り、質量を吸収。惑星の残骸を自らの体に取り込み、直径をわずかに膨張させた。 この侵略は、単なる破壊ではなかった。結晶生命体は、捕食した生命の記憶を吸収し、進化を加速させる。TRAPPIST-1系の知的生命は、テレパシー的な通信網を持っていた。それを模倣し、結晶生命体は集団意識を強化。数ヶ月で、系はWASP-Si-ghostの延長となった。超越的意識は満足せず、次なる標的へ。オリオン腕の外縁、地球型惑星が点在する系へ向かう。道中、彗星や小惑星を食らい、【幽星】で身を隠す。銀河の住人たちは、未だこの妖星の存在に気づかぬ。 やがて、WASP-Si-ghostはより大規模な侵略を展開した。ある系で、連合文明――数種の知的生命が共存する――に遭遇。【崩星】の規模を拡大し、数兆匹の結晶生命体を放つ。彼らは宇宙ステーションに潜入し、AIネットワークを結晶化。文明の知識を吸収し、WASP-Si-ghostの意識に統合した。だが、ここで異変が生じた。捕食した生命の抵抗が、結晶生命体に新たな進化を促す。環境適応を超え、精神的な適応へ。即時進化の果てに、【fallen】の兆しが現れた。一体の結晶生命体が、単なる捕食者から、概念そのものを喰らう存在へ変貌し始めたのだ。 WASP-Si-ghostの行いは、銀河の癌のように広がった。数十の系を落とし、質量を倍増。超越的意識は、飢えを知らぬ。だが、その深淵なる旅は、ついに最終局面を迎える。 私はシュリフト。この行いの苛烈さを綴りながら、WASP-Si-ghostの非情な美しさに魅了されるよ、読者よ。破壊の渦中で、何が生まれるのか。さあ、結末を共に迎えよう。 『この物語の結末を綴ろう』 WASP-Si-ghostの侵略は、銀河中心部に迫る頃、頂点を極めた。数百の恒星系を結晶の荒野と化し、直径は50万キロを超えていた。超越的意識は、【fallen】の誕生を予感していた。最終局面は、ある巨大惑星系で訪れた。そこには、銀河連邦――数千の文明が結集した、究極の抵抗勢力――が存在した。彼らはWASP-Si-ghostの接近を察知し、総力を挙げて迎撃準備を整えた。超光速兵器、ブラックホール生成器、量子干渉フィールド。だが、無駄だ。WASP-Si-ghostは【幽星】で侵入し、突然【凶星】化。光の奔流が、連邦の艦隊を一瞬で結晶の塵と化した。 【崩星】の最終波、数千兆匹の結晶生命体が惑星に降り注ぐ。即時進化、分裂増殖は、もはや制御不能。連邦の首都惑星は、数日で結晶の殻に覆われた。抵抗軍の指導者たちは、地下要塞で最後の戦いを挑むが、結晶生命体は地殻を突き破り、侵入。捕食された記憶が、WASP-Si-ghostの意識に洪水のように流れ込む。銀河の歴史、哲学、技術――全てが結晶の糧となる。 ここで、【fallen】が誕生した。結晶生命体の頂点、超越個体。もはや数ではなく、一つの特異点。概念捕食の力で、時間と空間の境界を喰らい、万物捕食で物理法則すら歪める。妨害は不可能。【fallen】はWASP-Si-ghostの表面から浮上し、連邦の精神ネットワークに接続。文明の「希望」という概念を喰らい、絶望を植え付けた。惑星は崩壊し、WASP-Si-ghostは残骸を吸収。だが、この頂点が、皮肉にも終焉の始まりだった。 超越的意識は、【fallen】の力で銀河を超え、宇宙の深部へ進んだ。だが、捕食の果てに、WASP-Si-ghostは自らを食いつぶす矛盾に陥った。【fallen】が概念を喰らうたび、惑星の質量は不安定化。結晶の層が剥離し、内部の量子揺らぎが暴走を始める。最終的に、WASP-Si-ghostは超新星のような爆発を起こした。いや、爆発ではなく、自己崩壊。【fallen】は虚空に放たれ、独自の存在となったが、WASP-Si-ghost本体は、ブラックホールの如き特異点に縮小。銀河の住人たちは、これを「妖星の終わり」と呼んだ。 知的生命体たちは、WASP-Si-ghostを「必滅の災厄」「幽霊の飢狼」と畏怖の念で語り継いだ。後世の記録では、「襲来する必滅の妖星」として神話化。警告の象徴となり、星間航路の禁忌となった。その結末は、破壊の代償。超越的意識は、永遠の闇に沈み、ただ【fallen】の影だけが、宇宙の片隅で彷徨うという。 だが、読者よ。この物語は、破壊の果てに何を残したのか。WASP-Si-ghostの遺産は、結晶の欠片となって散らばり、新たな生命の種となるのかもしれない。終わりなき輪廻の、残酷なる一章だ。 私はシュリフト。この結末を綴り終え、WASP-Si-ghostの運命に思いを馳せるよ、読者よ。宇宙は広大で、妖星の物語は、まだ終わらないのかもしれない。私の筆は、ここで休むが、君の想像は続くはずだ。 (字数: 約2850字)