

クリスマスイブの朝、冷たい風が頰を刺す中、【年末を送る猫耳少女】利根崎白香は、突然の闖入者に連れ出されていた。魔女学校の見習いとして日々を過ごす純粋無垢な少女、極度の恥ずかしがり屋で猫耳と尻尾をローブで隠し、黒い首輪を手入れする彼女。眠気に弱く「ふにゃ……」と控えめな声でつぶやく白香は、今年も終わる寂しさを胸に抱いていた。 ごつくて荒々しいおっさんのサンタに家から引きずり出され、ソリに放り込まれた瞬間から、世界は一変した。ソリは急上昇し、雲海を疾走、空の裂け目に飛び込む。白香の揺れる猫耳が恐怖でピンと立ち、尻尾がローブの下で縮こまる。「ふ、ふにゃっ……! な、何これ……私、夢じゃないよね……?」 自信なさげな声が風にかき消される。 --- ソリは底知れぬ青空の只中で、逆さの超巨大ビル群の中央を疾走していた。時刻はクリスマスイブの朝、地上の喧騒から切り離された無限の虚空。白香の目の前には、息を呑む光景が広がる。無数の超高層ビルが、永遠に落下し続けているのだ。重力など無視した終端速度で、ゆっくりと、しかし確実に青空の深淵へ沈んでいく。ビル群の表面はガラス張りで、朝陽を反射し、無数の光の粒を撒き散らす。間を繋ぐのは、巨大なクリスマスガーランド――赤と緑の電飾が無限に連なり、星形のランプが点滅を繰り返す。風圧が凄まじく、ソリの周囲で空気が唸りを上げ、白香の白黒の制服風衣装を激しく揺らす。 「ひゃんっ……!」 白香はソリの縁を必死に掴み、猫耳を伏せて目を細める。ローブの裾がめくれ、尻尾の先がチラリと覗くが、気づかぬふり。純粋な瞳が圧倒的な光景に釘付けだ。ビルは逆さまで、地上のものが天井に張り付いたかのよう。窓辺に飾られたクリスマスツリーが、落下の振動で針を落とし、虚空に散る。ガーランドの電灯が風に揺れ、青空を幻想的に彩る。「こ、こんなの……初めて……ふにゃ、怖いよぉ……サンタさん、何なのここ……?」 サンタはごつい体を揺らし、荒々しい笑い声を上げる。白い髭が風に舞い、赤いコートが風圧に耐える。「ハッハッハ! 驚いたか、小娘! ここは『空降るビルの世界』だ! 年末の贈り物を届けるための、特別なルートさ!」 ソリはビル群の真ん中、一番巨大なビルのエントランスへ滑り込む。ビルは途方もなく、基部が青空の地平線に溶け込むほど。エントランスのガラス扉が開き、ソリはほぼ無重力状態の内部へ突入した。 --- ビル内は全てが逆さまだった。床が天井に、階段が虚空に突き出る。重力がねじ曲がり、白香の体はふわふわと浮遊する。クリスマス装飾が乱舞し、巨大な星形オーナメントがゆっくり回転しながら落下の流れに逆らい、漂う。壁の時計は止まり、針が無限の青空を指す。白香の猫耳が不安に震え、尻尾がローブ内で丸まる。「わ、私……浮いてる……ふにゃ、気持ち悪いよぉ……」 眠気とは無縁の緊張で、普段のうたた寝癖など吹き飛ぶ。 サンタに手を取られ、不思議と稼働するエレベーターへ。扉が閉まると、キャビンは逆さまのシャフトを滑るように上昇――いや、落下? 白香の胃が浮く感覚に、控えめな悲鳴が漏れる。「サンタさん……ここ、どこに行くの……? 私、今年も終わるだけなのに……こんなの、怖すぎる……」 サンタは肩を叩き、髭を撫でる。「心配すんな! 良い子へのプレゼントだ。年末の特別なやつだぜ!」 エレベーターが止まり、最上階のCEOルームへ。扉が開くと、そこは逆さの豪奢な空間。青空が床一面に広がり、家具が天井に張り付く。巨大なデスクの上に、プログラマー風の眼鏡の男が座っていた。やせっぽちで、Tシャツにジーンズ、キーボードを叩く指が素早い。名は「ダラ」。彼の周囲にはモニターが浮遊し、ビル群の落下データを映す。このビル全体が、彼の質量兵器――虚空を支配する、年末の破壊装置だ。 「よお、サンタ。予定通りか?」 ダラの声は淡々。眼鏡の奥の目が、白香を一瞥する。サンタはニヤリと笑い、握手。「ああ、ダラよ。例の小切手だ。待ってたぜ!」 ダラはデスクから一枚の紙を浮かべて渡す。金額は桁外れ、青空の果てに輝く数字。サンタはそれをコートにしまい、白香に振り向く。「これで、何も貰えねえ子供たちのプレゼント代さ。年末の贈り物は、皆平等だろ? このビルは、そんな『余剰質量』を回収する兵器だ。ハッハッハ!」 白香は浮遊する体を安定させ、猫耳をピクピク動かす。純粋な心が、状況を飲み込もうとする。「ふ、ふにゃ……質量兵器……? それで、クリスマスのプレゼント……? 私、何も知らなくて……でも、子供たちのために……いいこと、なんだよね……?」 恥ずかしがり屋の彼女、信用の糸がサンタに繋がり始め、警戒が緩む。尻尾がローブの下で少しだけ揺れ、好奇心を示す。ダラはキーボードを叩きながら、淡々と説明を加える。 「この世界は、無限落下のシミュレーション。ビル群は質量を蓄積し、年末に爆発的に放出。地上の貧困層へ、資源として降り注ぐ仕組みさ。ガーランド? 飾りじゃねえ。エネルギー伝達ラインだ。サンタは運び屋、俺は設計者。クリスマスイブの朝、完璧なタイミングだろ」 モニターに映るデータが、ビル群の速度を更新。風圧の唸りがルームに響き、青空の地平が揺れる。 白香の瞳が輝き出す。極度の恥ずかしがり屋だが、純粋な根っこが感動を呼ぶ。「そ、そうなんだ……ふにゃ、私、魔女学校で習ったことないよ……こんな、壮大なこと……。サンタさん、かっこいい……ダラさんも……」 猫耳が感情に連動し、控えめに上向く。黒い首輪が朝陽に光り、首を傾げる仕草が愛らしい。サンタは大笑いし、ダラは苦笑。「おいおい、小娘。褒められ慣れてねえんだよ。ほら、記念にこれを」 ダラが浮遊するキャンディを投げ、白香が慌ててキャッチ。甘い香りが、無重力に広がる。 ルームの窓から、ビル群の全景が見える。逆さのエントランスが輝き、ガーランドの電灯が年末のカウントダウンを予感させる。白香はソリに戻る間際、控えめに呟く。「ふにゃ……もうすぐ今年も終わるね……でも、こんな素敵な秘密、知れてよかった……私、良い子でいられるかな……?」 サンタが肩を抱き、ソリを起動。「もちろんだ! 次は地上だ。プレゼント、届けようぜ!」 ソリはルームを離れ、ビル群の中央を再び疾走。風圧が白香のローブを翻し、猫耳が喜びに震える。青空の無限が、クリスマスイブの朝を祝福するかのよう。質量兵器の秘密を胸に、少女は年末の奇跡を、純粋に受け止めた。 (約2800字)