

クリスマスイブの夕方、真っ暗な極北の夜空の下、トントゥの街の一角に佇む木造の仕立て屋は、不思議な暖かさに満ちていた。小柄な初老のトントゥが、赤い三角帽子の下で穏やかな笑みを浮かべ、小さなメガネをかけながら仕事台に立つ。室内はストーブの火が優しく揺らめき、カラフルに整理された糸巻きや針、布地が棚に並び、まるで魔法の工房のような心地よさだ。外の厳しい寒さとは裏腹に、ここは穏やかな灯りがすべてを包み込む。 「ほほ、ようこそおいでやす、サンタ殿。そしてお連れのお嬢さん。サンタの服を一式、仕立てましょうか。ご心配なく、他種族の採寸も私の得意分野じゃよ」トントゥの仕立て屋は、荒々しいおっさんのサンタに軽く頭を下げると、猫耳少女――利根崎白香の方へ視線を移した。白香はサンタに促されてこの家に入ったばかりで、ぶかぶかな黒ローブの裾を握りしめ、自信なさげに猫耳をピクピクと震わせている。 「ふ、ふにゃ……あの、私、こんなところで……サンタ服、なんて……」白香の声は控えめで、尻尾が不安げにゆらりと揺れる。普段の魔女学校の制服風衣装とは違い、こんな暖かな部屋で服を仕立ててもらうなんて、恥ずかしさが込み上げてくる。だが、サンタの提案に乗った手前、逃げ出すわけにもいかず、トントゥの穏やかな笑みに少し警戒が緩むのを感じていた。 「ささ、こちらへどうぞ。お嬢さん、両腕を広げて、背筋を伸ばしてみておくれ。採寸じゃよ」トントゥはメジャーを手に素早く動き、小柄な体躯とは思えぬ機敏さで白香の周りを回る。肩幅、胸囲、腰回り、裾の長さ――小さなメガネの奥の目が鋭く光り、数字をメモもせずに記憶していく。白香は顔を赤らめ、「ひゃっ……そ、そんなに近くで……ふにゃあ……」と小さな声を漏らすが、トントゥの手は粛々と、プロフェッショナルに進む。猫耳がぴんと立ち、尻尾が恥ずかしげに丸まるのが見えたが、トントゥは気にした様子もなく微笑むだけだ。 採寸が終わると、トントゥは仕事台に赤いベルベットの布を広げた。ハサミが空気を切り裂く音すら正確で、裁断された布片はまるで生き物のように整然と並ぶ。「魔法など使っておらぬよ。ただの技じゃ」と言いながらも、その手さばきは目に見えて異次元――布地が宙に浮かぶかのように折り重なり、針が閃光のように縫いを走らせる。白香は目を丸くして見つめ、「わ、わあ……あっという間に……まるで魔法みたい……」と呟く。ストーブの火が赤い布を照らし、ジャケットの形が浮かび上がる。ズボン、帽子、黒いブーツまで、一式が爆速で組み上がっていく。 「ほほ、もう少しじゃ。一時待っておれば、完成じゃよ。お嬢さん、こちらへ試着を」トントゥが手渡したのは、完璧なサンタ服一式。白香はドキドキしながらローブを脱ぎ、赤いジャケットに袖を通す。ふわっとしたベルベットが肌に優しく、黒い縁取りが彼女の白い肌を引き立てる。ズボンは細身の脚にぴったりとフィットし、黒光りするブーツが足元をしっかりと支える。そして、赤い三角帽子を被ると――猫耳が帽子の下でわずかに覗き、尻尾が後ろの穴から自然に揺れるように設計されていた。 新しいサンタ服が、信じられないほど白香に似合っていた。純粋無垢な猫耳少女の華奢な体躯に、赤い布地が鮮やかに映え、いつもぶかぶかな黒ローブで隠れていた彼女の輪郭を優しく強調する。ジャケットの裾が軽やかに広がり、白いブラウスを思わせる襟元が可愛らしく覗く。帽子は少し大きめで、被った拍子に猫耳がぴょこんと動き、まるでクリスマスの妖精のような愛らしさを増幅させる。ブーツの黒い光沢が雪を踏みしめる想像を掻き立て、全体が彼女の控えめな雰囲気に溶け込みながらも、どこか堂々とした輝きを放つ。頰を赤らめた白香の瞳が、鏡に映る自分を見て輝き、「ふにゃ……こ、これ、私……? 似合ってる、かな……暖かくて、ふわふわで……」と尻尾を嬉しげにパタパタさせる姿は、トントゥさえ感嘆の笑みを深くした。 「完璧じゃのお嬢さん。新年のサンタ服、今年の思い出にぴったりじゃよ」トントゥが満足げに頷くと、白香は照れくさそうに帽子を直し、猫耳を隠そうとする仕草さえも愛らしい。サンタ服に包まれた彼女は、もうただの見習い魔法少女ではなく、極北の夜に舞い降りた小さなサンタのようだった。