

クリスマスの晩餐 クリスマスイブの夜、北欧の極北に近い街は、雪の帳に包まれていた。外は凍てつく寒風が吹き荒れ、星空の下で世界が白く静まり返っている。だが、大食堂の中はまるで別世界だ。木の梁が交差し、暖炉の炎が壁を赤く染める広々とした空間は、熱気と笑い声に満ちていた。労働者のおっさんたちがビールジョッキを掲げ、女子供たちが頰を赤らめて談笑する。トントゥの街から運ばれた高度な工場の匂いが、まだ誰かの服にまとわりついている。木の家々の住人である小柄なトントゥたち——髭をたくわえ、三角帽子をかぶった大人から、目を輝かせる子供まで——が所狭しと集まり、年末の宴を繰り広げていた。 その中心に、異邦人の少女が座っていた。【年末を送る猫耳少女】利根崎白香。魔女学校の見習い生で、普段はぶかぶかな黒ローブと帽子で猫耳と尻尾を隠しているはずの彼女だが、今はサンタ服に着替えさせられていた。赤いコートに白い縁取り、頭にはふわふわのポンポンが揺れる帽子。首には訳ありの黒い首輪が光り、丁寧に手入れされたそれは、彼女の純粋無垢な雰囲気を際立たせている。サンタの隣に座らされた白香は、大きな木製のテーブルを前に、控えめな視線を落としていた。 「ふにゃ……もうすぐ今年も終わるね……」 白香の声は小さく、自信なさげだ。一人称はいつも「私」で、恥ずかしがり屋の本性がにじみ出る。朝からサンタにごつい手で連れ出され、トントゥの街へソリで飛ばされ、妖精の工場見学に異形の天使の回収、おもちゃ運搬と、怒涛のクリスマスイブを過ごしてきた。最初は目を白黒させていたが、今は状況に慣れ、落ち着いている。隣のサンタ——ごつくて荒々しいおっさん——が豪快に笑う姿を、ちらりと見やるだけだ。信用した相手には警戒心が緩む白香にとって、この不思議な一日が、少し心地よいものに変わっていた。 食堂の熱気は、料理の香りと共に頂点に達していた。テーブルには、北欧の伝統が詰まったごちそうが並ぶ。まず運ばれてきたのは「森と湖の宝石グラヴィロヒ」。ディルと塩、砂糖で締められたサーモンが、薄くスライスされて皿に輝く。とろけるような濃厚な旨味が、口に含む前から香りで誘う。サンタがナイフで切り分け、皆に配る。 「おい、嬢ちゃん! 食え食え! これがクリスマスの味だぜ!」サンタの声が響き、白香はびくりと猫耳を帽子の中で震わせた。尻尾がコートの裾でそっと揺れる。 「え、えっと……ありがとう、ございます……」白香は頰を赤らめ、フォークでサーモンを一口。ぷるんと柔らかく、脂の甘みが舌に広がる。「……おいしい……ふにゃ、湖の宝石って、ほんとに宝石みたい……」 隣のトントゥの労働者が髭を撫でて笑う。「ハハッ、北の湖で獲れた新鮮なヤツだよ! 締めて旨味を凝縮さ!」女子供のトントゥたちが拍手し、子供がサーモンを頰張って頰を膨らませる。食堂中が「うまい!」「もっとくれ!」とどよめき、皆で分け合う楽しさが広がった。白香も少しずつ笑みを浮かべ、控えめに頷く。恥ずかしがり屋の彼女だが、美味しいものには弱い。焼き魚好きの舌が喜ぶ、繊細な味わいだ。 次に現れたのは「鮮やかなサラダ」。賽の目に刻まれたビーツ、人参、ジャガイモが山盛りで、ビーツの果汁でピンク色に染まったクリームが絡む。鮮やかな赤紫が、年末のテーブルを華やかに彩る。サンタがスプーンで掬い、白香の皿にドサリ。 「野菜も食っとけ! 魔法少女の見習いだろ? 体力つけな!」 「ふ、ふにゃ……は、はい……」白香は首輪を指でいじりながら、恐る恐る口に運ぶ。シャキシャキの食感と、甘酸っぱいクリームのハーモニー。柑橘系が苦手な彼女でも、これなら平気だ。「……ピンク色、かわいい……クリームが染まってて……おいしいです……」 トントゥの女性が目を細める。「ビーツの汁で色づけよ。子供たちが喜ぶのさ!」確かに、隣の子供トントゥがピンクのクリームを指に塗って遊び、笑い声が弾ける。労働者たちはビールを煽りながらサラダを頬張り、「新鮮だぜ!」と叫ぶ。白香の猫耳が帽子の中でピクピク動き、尻尾が嬉しげに揺れる。皆の笑顔に、コミュ障気味の心が溶けていく。 宴はさらに熱を帯び、「ヨウルキンク」がドンとテーブルに据えられた。マスタードとパン粉の衣を纏った巨大な豚肉の塊焼き。黄金色に輝き、切り口から凝縮された肉の旨味と脂の甘みが立ち上る。サンタがナイフを振り下ろし、ジューと音を立てて切り分ける。脂が滴り、食堂に肉の香ばしさが充満した。 「これぞクリスマス! ガブリと行け!」サンタが白香に一切れ渡す。彼女は両手で受け取り、息を弾ませる。 「こ、こんなに大きい……私、食べられるかな……」控えめな声で呟きつつ、かぶりつく。カリッとした衣の下、ジューシーな肉汁が爆発。甘みと旨味が口いっぱいに広がり、白香の目が潤む。「……あ、熱々で……お肉、甘くて……ふにゃあ……」 周囲が沸く。トントゥの労働者が「ヨウルキンク万歳!」とジョッキをぶつけ合い、女子供が小さな一切れを分け合う。子供の一人が肉汁で顔を汚し、母親が笑って拭く。サンタは豪快に骨までかじり、「お前も慣れたな、嬢ちゃん!」と背を叩く。白香は頰を赤らめつつ、尻尾を隠しきれずコートからチラリと覗かせる。純粋無垢な笑みが、ようやく自然にこぼれた。 飲み物は「スパイスとレーズン、アーモンドが香る熱いホットワイン」。湯気が立ち上り、シナモンとクローブのスパイスが甘く刺激的。レーズンとアーモンドが底に沈み、香りを凝縮させる。サンタが白香の前にカップを置き、「飲め! 体が温まるぜ!」 「ふにゃ……お酒、弱いんですけど……」白香は眠気に弱い体質で、すでに目がトロンとし始めていた。それでも一口。熱いワインが喉を滑り、甘い余韻が広がる。「……あったかくて、いい匂い……レーズン、ふくらんでて……」 トントゥたちが「グリュッグ!」と叫び、カップを回し飲み。女子供はノンアルコール版で頰を染め、皆で歌い出す。年末の喜びが、熱気と共に満ちる。白香はサンタの隣で小さく揺れ、うたた寝しそうになるのを堪える。寝相の悪さが心配だが、今は幸せそうだ。 そして、宴の締めはデザート。「貴重な黄金のベリー、ラッカを使ったパルフェ」。甘酸っぱいラッカの実が層をなし、クリームとグラノーラが絡む。透き通った黄金色が、暖炉の光で輝く。トントゥの子供たちが「わーい!」と手を叩き、サンタが白香に器を渡す。 「最後はこれだ。ゆっくり味わえよ。」 白香はスプーンを入れ、パルフェをすくい上げる。「……甘酸っぱくて、きれい……私、こんなごちそう、初めて……」一口、二口。皆がデザートを頬張り、満足の溜息を漏らす。労働者たちは「今年もいい年だったな」と語らい、女子供はラッカの種を数えて遊ぶ。 だが、そこに秘密のハプニングが訪れた。パルフェの中に紛れていた——不可知の魔法をかけられたラッキーアーモンド。誰かが噛むと、花火のように弾ける無害な一粒だ。運命は白香に訪れた。スプーンで掬った瞬間、アーモンドが口に。パリッと噛むと—— バチバチッ! ピカピカッ! 口内で小さな花火が弾け、色とりどりの光が広がった。無害だが派手で、白香の口からキラキラした粒子が飛び出し、テーブルの上に降る。彼女の目が丸くなり、猫耳が帽子から飛び出し、尻尾がビュンと立った。 「ふにゃあっ!? な、なにこれぇ……! 花火が、私の口から……!」 食堂が一瞬静まり、すぐに爆笑の渦。サンタが腹を抱えて笑い転げ、「ハハハ! ラッキーアーモンドだ! お前、運いいな!」トントゥの子供たちが「すごーい!」「もっと!」と飛びつき、労働者たちは拍手。女子供がキラキラを拾って遊ぶ。 白香は真っ赤になり、猫耳を隠そうと帽子を押さえるが、時すでに遅し。尻尾がパニックでブンブン揺れ、首輪が光る。「うう……見えちゃった……恥ずかしいよぉ……でも、キラキラ、きれいだった……ふにゃ……」 サンタが肩を抱き、「いいんだよ、嬢ちゃん。これがクリスマスの魔法さ!」皆の笑顔に包まれ、白香の心は温まる。眠気が襲う中、彼女は小さく微笑んだ。もうすぐ今年も終わる。こんな不思議な晩餐で、純粋な思い出を刻んで。 外の雪は静かに降り続き、大食堂の熱気は夜通し続いた。年末のクリスマス、猫耳少女の小さな冒険は、ここで輝く花火と共に締めくくられた。 (約2800字)