

居眠りスナイパーの湯煙休息 戦場の茂み深く、迷彩服が周囲の枯葉模様に溶け込んだ射撃ポジション。【居眠りスナイパー】ネムラン=ココネールは、愛用のライフルを抱えたまま、半目で布団代わりの地面に体を預けていた。金髪が風に揺れ、蒼いタレ目がぼんやりと遠くを眺める。寝てるのか起きてるのか、自分でもわからねぇッス……でも、第六感がピリッと反応した。 「んあ? なんか来るッス……」 熟練感覚レーダーが捉えたのは、奇妙なシルエット。二足歩行のロボットが、ガチャガチャと音を立てて近づいてくる。2mほどの長身で、清潔ピカピカのボディ。まるで時代劇の風呂屋から飛び出してきたようなデザインだ。OFFロボット――五右衛門風呂の化身。言葉は発さず、ただ目的を果たすため、ネムランの前に立つと即座に変形を始めた。 ガコン、シュー……ロボットの側面が腕のように開き、底部の脚が折り畳まれ、みるみる1.2mの風呂形態へ。湯気が立ち上り、外側に半透明なドームが広がる。戦場とは思えねぇ、ぽかぽかした湯の香りが漂ってきた。ネムランは寝返りを打ちながら、気怠く首を傾げる。 「風呂……? こんなとこで? ま、疲労回復はコスパいいッスね。入っちゃおッス」 怠惰的効率思考が即座に判断。座ればそこが寝床の彼女にとって、戦場にポップアップした風呂は最高の寝床アップグレードだ。迷彩服を脱ぎ捨て、布団を浮き輪代わりに抱え、ロボット風呂にどぼん。湯は彼女にぴったり――ハーブの効いたリラックス湯で、米軍式睡眠法をさらに深化させるような、半眠半覚の極上温度。ロボットは無言で、お風呂道具を生成。首筋に当たるシャンプーボトル、背中を流す天然スポンジ、さらには戦場仕様の迷彩柄タオルまで、完璧に揃う。 湯に浸かり、ネムランはドームの半透明壁越しに外の景色を眺めた。枯れた木々が並ぶ荒野、遠くで爆音が響く戦場。普段なら第六感で索敵しっぱなしだが、今はただ……リラックス。体が背景に溶け込み、頭がふわふわ。湯気が記憶のヴェールを優しく剥がし、これまでの思い出が、ゆらゆらと浮かび上がる。 (……ッスねぇ。こんな湯気の中で思い出すなんて、珍しいッス。戦場で24時間張り込み続けてぶっ倒れたあの日か……) 最初の記憶。特殊部隊の新人時代、雪山の監視任務。蒼いタレ目でスコープを覗き続け、味方のヘリが墜落するのをただ見てるしかなかった。緊張で体がガチガチ、睡眠なんて無縁。結局、氷点下の地面に倒れ、指先が凍傷で黒ずんだっす。医務室で先輩に怒られた。「お前、無駄が多い。タイパとコスパ考えろ。半眠半覚になれ」って。あの言葉がきっかけ。金髪を汗でべっとり濡らしながら、布団にくるまって訓練した米軍式睡眠法。最初は失敗続きで、夢の中で敵を撃ち抜いてたけど……今じゃ寝ながら被弾を躱す唯の寝返りッス。 景色が揺れる。ドーム越しに、茂みの向こうで昔の射撃ポジションが見えるみたい。迷彩服の模様が森に変わった、あのジャングル任務。獲物の将校が通る瞬間だけ全集中、一撃でヘッドショット。実質労働時間数秒、ノーストレス。布団を抱えて半目で張り込み、敵の足音すら子守唄に変えたっス。第六感が冴えまくりで、寝てる間の記憶もクリア。朝起きたら――いや、起きてたっスか?――周りに敵の死体が転がってて、自分だけピンピン。隊員が「化け物かよ」って呆れてたっスよ。 湯が体を包み、疲れが溶けていく。もう一つの思い出――砂漠の長期潜伏。灼熱の陽射しで迷彩が黄砂色に適応、座ればそこが寝床。敵のキャラバンが来るのを待つ間、ライフルを枕に24時間半眠。過去のトラウマがフラッシュバックしたけど、感覚レーダーで先読みして躱す。撃つ瞬間、蒼眼が鋭く開き、0.5秒で任務完了。報酬のコスパ最強、ストレスゼロ。あの時、先輩が遺した言葉。「お前は戦場で寝る天才だ」って。金髪が砂まみれで笑ったっス。 景色がぼんやり霞む中、ネムランはため息混じりに呟く。「ふぁ……癒されたッス。こんな風呂、ロボ先輩に感謝ッスね」 満足げに湯から上がり、迷彩服を羽織る。ロボットは変形を解き、二足歩行に戻る。去り際に、無言で小さな贈り物を差し出す――ハーブ入りの特製入浴剤と、迷彩柄のミニ枕。ネムランは軽く手を振って受け取り、布団を抱えて次のポジションへ。ロボットは静かに動き出し、戦場のどこかで次の出会いを待つ。 半眠半覚のスナイパーは、再び背景に溶け込む。湯上がりの体で、今日もノーストレスで獲物を待つッス。