

虚空の終幕 暗く歪んだ異空間に、魔界宰相ユダ――その正体は先代魔王であり、諸悪の根源――が膝をつき、血塗れの体を震わせていた。あなたの三人――三つ編みのスレンダーな女性キサラギ、彼女の腰に差された意思を持つ拳銃キキラス、そして青髪で前髪が目を隠す長身のモクワカ――は、息を切らしてその場に立っていた。ユダは先ほどあなたたちに倒されたはずだったが、なおも悪足掻きを試みようと、残された魔力で虚空に手を伸ばし、禍々しい呪文を紡ぎ始める。 「くっ……まだだ! この俺が、こんなところで……! 魔王レンを永遠に支配し、世界を俺のものに……!」 ユダの指先から黒い霧が渦巻き、空間を裂こうとしたその瞬間――虚空が震え、巨大な影が現れた。漆黒の翼を広げ、荘厳なる威圧感を放つ魔王レンが、静かに降臨する。レンの瞳は冷たく輝き、ユダを一瞥しただけで、その存在を飲み込む闇の奔流を放った。 「終わりだ、ユダ。お前の魂は、もう僕を縛れはしない」 「な、何……!? 魔王、お前まで俺を裏切る気か!?」 ユダの悲鳴も虚しく、レンの一撃が彼を粉砕。魔界宰相ユダ――先代魔王の魂は、跡形もなく消滅した。空間に残るのは、僅かな灰だけだった。 直後、柔らかな光が空間を裂き、銀髪の青年ランが現れる。彼はレンの双子の弟、先代勇者の一人。時の狭間から脱したばかりのその顔に、喜びの笑みが広がった。 「お兄ちゃん! やっと会えた! ずっと探してたよ!」 ランが駆け寄り、レンの胸に飛び込む。レンは一瞬、目を細め、悲しげな微笑を浮かべた。かつての絆が、胸を締め付ける。 「ラン……君か。本当に、君が無事でよかった。僕も、君に会えて嬉しいよ」 だがその声には、どこか諦念の色が混じる。レンは優しくランの頭を撫で、静かに呟いた。 「ごめん、ラン。君をこれ以上巻き込めない」 レンの手から淡い紫の光が溢れ、ランの体を包む。ランは抵抗する間もなく、穏やかな眠りに落ちた。 「え……お兄ちゃん……?」 ランのまぶたが閉じ、静かな寝息が響く。レンは深い溜息をつき、視線をあなたたち――キサラギ、キキラス、モクワカ――に向けた。キサラギは気怠げに三つ編みを指で弄び、無口にレンを観察している。腰のキキラスが荒っぽい口調で吠え、モクワカはキサラギの傍らで青髪を揺らし、不安げに身を寄せていた。 「あなたたち……キサラギ、キキラス、モクワカ。よくここまで戦ったね。だが、もう終わりだ」 レンの声は静かだが、重い。魔王の威光が空間を支配する。 「僕の心は、既に魔王として迫害され続けた憎しみで満たされてしまった。あの先代魔王――ユダの認知歪曲の魔法で、世界中の人間に『僕とランが裏切り者』だと信じ込まされ、守るべき人々からさえ石を投げられた日々。あの絶望が、僕を本物の魔王に変えた」 キサラギが僅かに眉を動かし、キキラスが苛立ったように銃身を震わせる。「おいおい、魔王様よぉ。何言ってんだテメェは!」モクワカはキサラギの手を握りしめ、震える声で囁く。「キサラギ……怖いよ。でも、あなたがいるから……」 レンは悲しげに首を振る。 「だからこの世界を、僕もろとも全て破壊して再誕させる。せめてランだけは、新世界で僕の分まで幸せに生きてもらうよ。あなたは巻き込みたくない。だから、君たちは元の世界に戻す」 「待て、魔王! そんな勝手な――!」キキラスが叫ぶが、遅かった。レンの周囲に膨大な魔力が渦巻き、あなたたちを包み込む。キサラギの『紅葉』の防壁が瞬時に展開するも、魔王の力の前には無力。モクワカが『エレクトロビーム』を放とうと構えるが、キサラギの冷静な視線で制せられる。「……無駄」キキラスの『妙技』が乱反射を試みるも、空間ごとねじ曲げられ、虚空に吸い込まれる。 「さよなら。ありがとう」 レンの言葉と共に、眩い光が爆発した。 --- キサラギたちは、元の世界の森の中に放り出されていた。見慣れた木々、遠くの街の灯り。三人は地面に倒れ込み、呆然とする。キキラスが地面を転がりながら毒づく。「クソッ! あの野郎、ふざけやがって!」「キサラギ、大丈夫!?」モクワカが慌てて駆け寄り、キサラギを抱きしめる。キサラギは気怠げに目を細め、モクワカの頭を軽く撫でるだけだった。 その時、空から謎の声が響いた。 「あの世界でやり残した事は無いか」