

常夜の港町 青い髪をフードで隠し、黒い角とトゲトゲしい尻尾を革鎧の下に収めた少女、【冒険者】BlueKnightは、異世界に召喚されて間もない身だった。魔王討伐の依頼を受け、この常夜の港町・ムーンライトに辿り着いた。空は永遠の夜に閉ざされ、月光だけが港の波止場をぼんやりと照らしている。遠くから聞こえるのは、奇妙な歌と笑い声。町民たちが広場で踊り狂う姿が、影のように揺れていた。 「これは……酷い有様ね。朝が来なくなったという噂は本当みたい。私にできることは何かしら……」 BlueKnightは慎重に町の通りを進んだ。石畳の道は酒瓶や散乱した果物で汚れ、灯籠の火が不気味に揺れる。近くで踊る町民の一人が、彼女に気づいてフラフラと近づいてきた。白髪の老人で、目が虚ろだ。 「余も老けて参りましたァン! ハハハ、月が踊るぞぉ!」 「待って、おじいさん! どうしたの? 正気に戻って!」 彼女はポーチから【煩雑ポーチ】の小瓶を取り出し、龍気を込めて軽く振り撒いた。【魔法剣】の応用で生成した微かな光が老人を包む。一瞬、老人の目が澄んだ。 「う、ううん……ありがとう、旅人さん。朝が来なくて、みんな……おかしくなって……」 だが、次の瞬間。老人の瞳が再び濁り、支離滅裂な笑い声が迸った。「やば苦無?(忍者) ピーピーピー!」 BlueKnightは唇を噛んだ。「一時的なものね。元凶を絶たないと……。他の人たちも同じかしら」 広場では十数人の町民が輪になって踊っていた。女が叫ぶ。「いあ、いあ、パスタぁ……もあい!」 男が飛び跳ねる。「ピーピーピー(機械音) 跋扈します。ご祝儀下さい!」 彼女は数人に声をかけ、ポーチのアイテムで正気に戻そうとしたが、すべて同じ結果。数秒で再び狂気に飲まれる。町の中心部を散策し、井戸や酒場、寺院跡を調べたが、手がかりは見つからない。ただ、港の方から帆船のシルエットが目に入った。数隻の定期便が、静かに停泊している。 港の波止場に近づくと、船員の一人が甲板から顔を出した。髭面の屈強な男で、目だけは冷静だ。 「おい、そこのフードの娘。冒険者か? この町から出たいなら、今のうちだぜ」 「ええ、そうよ。私はBlueKnight。この町の異変を調べに来たんだけど……朝が来なくなって以来、みんな狂ってるのね?」 船員は頷き、船縁に肘を預けた。「ああ、その通りだ。大陸の向こうから定期便で往来してるが、半月前から空が暗くなった。町民は一斉に正気を失って、踊り狂うようになった。俺たちは船内でやり過ごしてるが、いつまで持つか……。お前さん、魔王討伐の旅人だって? なら、この港から海に出て、大陸へ向かうのが賢明だ。町に留まるのは命取りだぜ」 BlueKnightは尻尾を軽く振って考え込んだ。「そうね……元凶がわからない今、無理に留まるのは危険かも。ひとまず海に出て情報を集めましょう。乗せてくれる?」 「もちろんだ。料金は大陸到着後でいい。さあ、乗船しろ!」 彼女は頷き、跳び上がるように船に飛び移った。【魔法剣】で生成した風の翼が一瞬、彼女を支える。帆船がゆっくりと港を離れ、常夜の海へ漕ぎ出す。後ろに広がるムーンライトの灯りは、狂った踊りの影を映して揺れていた。BlueKnightは甲板に立ち、赤い瞳で夜空を見上げた。 「魔王の影がここまで及んでるのね。私、必ず解決してみせるわ」