

脱出 烏賊鮫の体内は激しく震動し始めた。粘膜の壁が波打ち、革命軍の面々は慌てて帆船の甲板に飛び乗る。リカントロープは冷静に影を纏い、船縁を固く掴んだ。革命軍の一人が叫ぶ。 「この揺れは烏賊鮫が体外に物を吐き出す合図だ! 帆を張れ、急げ!」 リカントロープは頷き、影牢を展開して船体を護る。月の祝福が微かに輝き、予知の瞳が脱出の瞬間を捉える。次の刹那、烏賊鮫の巨体が収縮し、強烈な噴流と共に帆船を吐き出した。船は海面を滑るように飛び出し、波間に着水する。 周囲の海は静かだった。烏賊鮫が水面から顔を覗かせ、その巨眼が穏やかに船を見守る。最初の遭遇時の狂暴さは影を潜めていた。 帰還 帆船は風を切り、港町へと急ぐ。革命軍の者たちは甲板で拳を掲げ、互いに肩を叩き合う。 「幹部タコリリスを倒したぞ! 生還だ、生きて帰れた!」 リカントロープは船首に立ち、寡黙に海を眺める。烏賊鮫が遠くから船影を見送る姿が、予知の瞳に映る。港町の灯りが近づき、波止場に人々が集まるのが見えた。正気を失っていた町民たちの目には、ようやく光が戻っていた。 船が桟橋に着く。町民たちが歓声を上げ、リカントロープを迎える。革命軍の報告が広がり、港は一気に活気づいた。 祝宴 夜の港町は宴の熱気に包まれる。松明の炎が揺れ、酒樽が打ち解け、焼き魚やパン、果実が並ぶ長テーブル。町民たちはリカントロープを囲み、杯を掲げる。 「守護者よ、感謝する! お前のおかげで我々は正気を取り戻した!」 リカントロープは静かに杯を受け取り、穏やかに応じる。「私にできることは、果たしたまでだ。きみたちの強さが、勝利を呼んだ。」 革命軍の隊長が肩を叩く。「タコリリスの仕業だったとはな。あの魔王軍幹部が烏賊鮫を操り、町を狂わせていた。君の影槍が決め手だったよ。」 リカントロープは朴訥に頷く。「月が導いた。宴を楽しみ、休息を。」 烏賊鮫は沖合に浮かび、静かに町を見守る。その巨体はもはや脅威ではなく、守護の象徴のようだった。笑い声と歌が夜空に響き、宴は更けた。 黎明 夜明け前、リカントロープは宿の窓辺に立つ。港は静まり、町民たちは深い眠りに落ちていた。一泊の休息を終え、旅の続きへ。影が微かに揺れ、神代結界が周囲を護る。 烏賊鮫は水平線に沈み、穏やかな波を残して去る。リカントロープは荷をまとめ、静かに呟く。「また、どこかで会うやもしれぬ。」 朝陽が昇る中、リカントロープは港町を後にした。帷の守護者として、月と共に次の夜を渡るために。