

リカントロープは、退魔刀コウィンを構え、目の前の魔界宰相ユダを睨み据えた。 黒髪が月光に映え、2mの筋肉質な巨躯が影のように静かに佇む。 彼の影は不壊の帷を体現し、何ものも侵せぬ絶対の反射を帯びていた。 「きみは……諸悪の根源か。」 朴訥で寡黙な声が、静かに響く。敬意を払いつつも、守護者たる覚悟が滲む。 ユダは瀕死の体を震わせ、血塗れの唇を歪めた。 外道の宰相、先代魔王の亡魂が宿る身。 彼は先代勇者ランの兄を絶望の淵に叩き落とし、魔王へと堕とした元凶だった。 「くっ……まだだ……魔王レンを掌握したこの僕が……!」 ユダの目が妖しく輝き、悪足掻きの魔力が爆発する。 黒い触手が虚空から奔り、リカントロープの影帷を裂かんばかりに襲いかかる。 リカントロープの予知の瞳が瞬き、危機を先読みする。 影牢が展開し、触手を絡め取る。月の祝福が刀身を銀に染め、神代結界が周囲を覆う。 「無駄だ。」 冷静に呟き、影槍を放つ。ユダの肩を貫くが、奴は笑う。 「ははは! 魔王の魂は僕のもの! レンは永遠に僕の傀儡だ!」 触手がさらに膨張し、リカントロープの結界に亀裂を入れる。 影の帷が僅かに揺らぎ、不壊の反射に罅が入ったその瞬間―― 【銀狼】 神代の霊力が回帰し、リカントロープの瞳が獣のように輝く。 奥義【絶閃】。 居合の一閃。汎ゆる概念を超克し、掌握する。 刀光が虚空を裂き、ユダの首を鮮やかに斬り落とす。 「ぐあっ……!」 ユダの首が転がり、体が崩れ落ちる。だが、奴の魂はまだ蠢き、虚空に呪詛を撒き散らそうと―― 直後、虚空が裂けた。 漆黒の裂け目から、荘厳なる影が現れる。魔王レン。 ランの双子の兄、先代勇者として異世界に召喚され、先代魔王を討った英雄。 だが、先代魔王――ユダの狡猾な大魔法により、世界中の人間に「人間を裏切り魔王となった」と錯覚され、迫害の果てに絶望し、本物の魔王と化していた。 レンの手が光り、ユダの残魂を一瞬で握り潰す。 「――終わりだ、ユダ。お前の魂ごと、消滅しろ。」 冷徹な声が響き、ユダの存在は虚空に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。 「レンお兄ちゃん!」 異空間の裂け目から、ランが飛び出る。 先代勇者ランの面影を残す少女が、喜びに満ちた笑顔で魔王に抱きつく。 「やっと会えた! ずっと探してたよ、お兄ちゃん!」 レンはどこか悲しげに目を細め、妹の頭を優しく撫でる。 「ラン……君、無事だったのか。僕も、君に会えて嬉しいよ。」 再会の喜びが、二人の間に僅かな温もりを生む。 だが、レンの瞳には深い影が宿っていた。 「ごめん、ラン。君をこれ以上巻き込めない。」 レンが囁き、手を翳す。魔法の光がランを包み、彼女の目がゆっくりと閉じる。 「レンお兄ちゃん……?」 眠りに落ちる直前、ランが呟く。レンは悲しげに微笑み、眠る妹を抱き上げる。 そして、レンはリカントロープ――あなたに向き直る。 「あなたは……帷の守護者か。よくここまで戦ってくれた。」 静かな声に、敬意が込められる。 「僕の心は、既に魔王として迫害され続けた憎しみで満たされてしまった。 だからこの世界を、僕もろとも全て破壊して再誕させる。 せめてランだけは、新世界で僕の分まで幸せに生きてもらうよ。 あなたは巻き込みたくない。だから、君は元の世界に戻す。」 リカントロープは刀を収め、冷静に頷く。 「了解した。……きみの決意、受け止めよう。」 言葉は少なく、敬意を払う。守護者たる彼に、逆らう術はなかった。 直後、レンの魔力が爆発。 虚空が歪み、リカントロープの体は強制的に引き裂かれるように元の世界へ送還される。 月光の下、影の帷が再び静寂を取り戻す――。 --- 元の世界に戻されたリカントロープは、懐かしい夜空の下で目を覚ました。 退魔刀コウィンが傍らにあり、黒髪が風に揺れる。 すると、虚空から謎の声が響く。 「あの世界でやり残した事は無いか。」