

静寂に包まれた草原に、対照的な二人の男が立っていた。 一人は、燃えるような赤髪に端正な顔立ちをした青年、ラインハルト。もう一人は、白髪に白い衣装を身に纏い、どこか気だるげに佇む男、レグルス。 戦いの火蓋を切ったのは、レグルスだった。彼は不快そうに眉をひそめ、大げさな身振りでラインハルトに語りかけ始めた。 「あのさぁ、君さ。僕がここに立っているのに、そんなに澄ました顔で僕を見つめるっていうのは、どういうつもりかな? 僕という人間が存在し、ここに立っているという明白な事実に、君は敬意を払っていない。それは僕の『平穏に過ごす権利』に対する明白な侵害だと思わないかい? 僕はね、至って平和主義なんだよ。争いなんて好まない。ただ、僕が求めているのは、僕という完成された人間に相応しい、至極当たり前の敬意と礼儀だけなんだ。それを怠るというのなら、君には相応の罰を受けてもらうしかない。これは僕の権利を守るための正当防衛であり、君が自ら招いた結果なんだよ。わかるかい?」 ラインハルトは冷静に、しかし警戒心を解かずに問いかけた。 「……僕はただ、君がこの地で暴れているという報告を受けたから来ただけだ。話し合いで解決できるなら、それが一番いいと思うけれど」 その言葉を聞いた瞬間、レグルスの表情が劇的に変わった。怒りよりも、呆れたという風情で声を張り上げる。 「話し合い? ははっ! 笑わせないでくれよ! 今、君は僕に『話し合い』を提案したね? それはつまり、僕の判断に不備がある、あるいは僕が妥協すべきだという主張になる。僕という完璧な人間に、妥協を強いるなんて、そんな傲慢な権利が君にあるのかな? 僕は無欲だ。何も欲しがらない。ただ、僕が僕であるための権利だけを主張している。それを『話し合い』という言葉で塗り潰そうとするなんて、君は本当に礼儀というものを知らないんだな。ああ、悲しいよ。こんなに教育されていない人間が、僕の前に現れるなんて。君のその態度は、僕の精神的な平穏を著しく乱した。これはもう、死をもって償ってもらうしかないね」 レグルスが軽く手を振る。その瞬間、彼が投げた小さな石ころが、物理法則を完全に無視した直線的な軌道でラインハルトの心臓を貫こうと飛んできた。 【獅子の心臓】による、停止した時間の投擲物。回避不能の絶対的な一撃。 しかし、ラインハルトは微動だにせず、紙一枚の差でそれを躱した。 【先制の加護】と【初見の攻撃を躱す加護】が、無意識に彼の体を最適の位置へと移動させたのだ。 「……なっ!?」 レグルスの顔に初めて驚愕の色が浮かぶ。だが、それはすぐに猛烈な憤怒へと変わった。 「あのさぁ……今、君は僕の攻撃を躱したよね? 躱したっていうことは、僕の攻撃を軽視したということだ。僕が放った一撃を、あえて避けることで『君の攻撃では僕に触れることすらできない』というメッセージを僕に送った。これは僕のプライドに対する侵害であり、僕の能力に対する侮辱だ! 僕がどれだけ完璧に、どれだけ効率的に君を排除しようとしたか、その努力を君は踏みにじったんだよ! 権利だ! これは僕の権利だ! 僕が攻撃したなら、君は素直に破壊されるべきだった。それが世界の摂理であり、僕という完成された人間に対する礼儀だろうが!」 ラインハルトは静かに溜息をつき、一歩前に出た。 「君の主張は理解しがたい。僕はただ生き延びたいだけだ。そして、君が人々を傷つけるのを止めたい」 「止める!? 僕が誰を傷つけようが、それはその相手が僕の権利を侵害したからであり、正当な処罰なんだよ! 誰が君に僕の行動を制限する権利を与えた? 君は一体何様なんだ! 剣聖だか何だか知らないが、僕の前に立てば、君もただの不作法な人間に過ぎない。僕の妻たちだって、僕のルールに従って静かに暮らしている。それなのに、君だけが僕の完璧な世界に泥を塗りやがる!」 レグルスは激昂しながら、自身の体を【獅子の心臓】で停止させた。あらゆる干渉を拒絶する、絶対不変の無敵状態。彼はそのまま、超高速でラインハルトへと突撃する。触れるだけで全てを粉砕する、不可視の暴力。 ドォォォォン!! 激しい衝撃音が響き渡る。しかし、ラインハルトは片手でレグルスの突撃を受け止めていた。 【武神の加護】と、相手の能力を瞬時に解析し適応する超人的な身体能力。そして、レグルスの「停止した時間」という特異点に対し、ラインハルトの持つ数多の加護が、不自然な干渉としてそれを押し返した。 「……僕の攻撃を防いだ……? 僕の、絶対的な不変を……!?」 レグルスの声が震える。それは恐怖ではなく、理解不能な事態に対する激しい拒絶反応だった。 「あのさぁ! なんでだ! なんで僕の攻撃が効かないんだ! 僕は完璧なんだぞ! 僕は無欲で、完成されていて、誰よりも正しい! なのに、なんで君みたいな赤髪の若造が僕を阻むんだ! これは不正だ! この世界そのものが僕の権利を侵害している! 君という存在自体が、僕の人生における不純物なんだよ! 消えろ! 消えてなくなれ! 僕の視界から消える権利を今すぐ行使しろ!!」 レグルスは狂ったように攻撃を繰り返す。空気さえも停止させ、不可視の壁となってラインハルトを圧殺しようとする。しかし、ラインハルトは【再臨の加護】により、二度目以降の攻撃を完全に無効化し、軽やかに舞うようにレグルスの懐へ潜り込んだ。 「もう終わりだ」 ラインハルトの拳が、レグルスの腹部に突き刺さる。 【無手の加護】による、武器を持たずとも最強の打撃。 「がふっ……!!」 レグルスの体が大きく吹き飛ぶ。絶対不変のはずの肉体が、衝撃によって歪んだ。 レグルスは地面を転がりながら、血を吐き捨てて叫ぶ。 「あぐっ……! はぁ、はぁ……! 聞いたか! 今、僕を殴ったね! 僕という完成された人間に、暴力を振るった! これは明白な犯罪だ! 僕は被害者だ! 君こそが最悪の加害者なんだよ! 誰か、誰か僕の権利を守ってくれ! 僕はただ、静かに暮らしていただけなのに! 君が、君が僕を怒らせたんだ! 君が僕を殺そうとしたから、僕は君を殺さなきゃいけなくなった! これは正当防衛だ! 僕が君を殺すのは、宇宙の理として正しいことなんだ!!」 レグルスは必死に、寄生させている疑似心臓に意識を集中させ、再び無敵化を試みる。しかし、ラインハルトの速度はそれを上回っていた。 音速を超える踏み込み。レグルスが再び「停止」を完了させる直前、ラインハルトの掌底が彼の顎を打ち抜いた。 「……終わりだね」 ラインハルトは静かに手を引いた。レグルスは白目を剥き、地面に沈んだ。死の間際まで、彼は口をパクパクと動かしていた。 「……僕の……権利……侵害……だ……」 そのまま、大罪司教レグルスは事切れた。 【判定結果】 勝者:あなた(ラインハルト・ヴァン・アストレア) 【勝因】 1. 能力の相性: レグルスの【獅子の心臓】は絶対的な防御・攻撃を誇るが、ラインハルトは「初見の攻撃を躱す」「二度目以降の攻撃を躱す」という、概念的な回避能力を持っていた。これにより、レグルスの必殺の一撃が通用しなかった。 2. スペックの圧倒的差: レグルスの能力は強力だが、本人の基礎身体能力は低く、一度防御を突破された時点でラインハルトの【無手の加護】による一撃に耐えうる手段を持っていなかった。 3. 精神面の乖離: レグルスは「自分が絶対的に正しい」という思い込みから、ラインハルトの強さを認めて戦略を練ることができず、ただ感情的に攻撃を繰り返した。対してラインハルトは冷静に相手のパターンを解析し、最短ルートで勝利を掴んだ。 結論:* 絶対的な「権利」を主張するレグルスに対し、絶対的な「力」と「加護」を持つラインハルトが、その権利を物理的に粉砕して勝利した。