


荒野に吹き付ける乾いた風が、砂塵を舞い上げていた。地平線まで続く赤茶けた大地。そこは、強者が己の力を証明し、弱者が砂に還る場所。 そこに、あまりにも対照的な二人の男が対峙していた。 一人は、赤い鱗に身を包み、不釣り合いな長ランとジーパンを纏った巨躯のリザード。腕に巻かれた古びた包帯が、数々の喧嘩と特訓の証として揺れている。 「ガハハ! なんだぁ、あのカボチャ野郎は! 面構えがシケてやがるゼ!」 【地元にゃダチがいっぱいいるんだゼ】リザードのパイセンは、豪快に笑いながら拳を打ち鳴らした。その声は荒々しく、言葉の端々に独特のカタカナが混じる。 対するは、南瓜の頭を持つ異形。ジャケットにスカーフを巻き、静かに佇む男。その目の穴から漏れる不気味な光だけが、彼の意志を示していた。 「……依頼内容は『リザードのパイセンを制圧せよ』。それだけか。シンプルでいい」 何でも屋ジャックは、短く呟くと、懐から一本の煙草を取り出し、火をつけた。 「おい、カボチャ! オレのダチたちが待ってるんだ、サッサと片付けて帰るゼ!」 パイセンが地を蹴った。その瞬間、爆発的な加速と共に周囲の空気が熱を帯びる。 「【ダチファイヤ】!!」 パイセンの全身から、紅蓮の炎が噴出した。それは単なる火炎ではなく、彼が地元で築き上げた数多の友情、絆、そして共に流した汗という「情熱」を燃料とした不滅の炎。炉内に生成された超高熱が、彼の拳に集束する。 ドォォォン!! 地面が陥没するほどの衝撃波と共に、炎の拳がジャックを襲った。しかし、ジャックは最小限の動きでそれを回避する。 「……速い。だが、直線的だ」 ジャックは懐から瞬時に小型の煙幕弾を投げつけ、視界を遮断した。同時に、袖口から仕込んだワイヤーを射出し、パイセンの足元を絡め取ろうとする。完璧なタイミング、完璧な精度。 だが、パイセンは天然であった。 「あぁ!? なんかモヤモヤするゼ! 視界が悪すぎて、むしろ気合が入るじゃねーか!!」 もはや視覚など不要。パイセンは、万象を覆す瞬発力を爆発させ、煙の中から真っ向から突進した。 「オラァ! 特攻(ドッカン)だゼ!!」 炎を纏った正拳突きが、ジャックの懐に潜り込む。ジャックは即座に格闘術に切り替え、受け流そうとした。しかし、パイセンの拳に宿る破壊力は、想定を遥かに超えていた。 ガギィィン!! 激突した瞬間、ジャックの腕に強烈な衝撃が走る。パイセンの鱗は並大抵の攻撃を弾くが、その攻撃力はさらに凄まじい。ジャックは後方に大きく弾き飛ばされたが、空中で身を翻し、完璧な着地を決めた。 「……なるほど。筋力と火力に特化した特化型。ならば、こちらは『完璧な対処』で返すまでだ」 ジャックは武器を次々と切り替えた。高周波ブレードで鱗の隙間を狙い、麻痺毒を塗った針を放ち、重力 grenades で足止めを試みる。あらゆる道具を使い、最短ルートで勝利を掴もうとするプロの仕事。 だが、パイセンは止まらない。 「いいゼ、いいゼ! おめぇ、結構いい動きするじゃねーか! オレのダチの誰かさんに似てるゼ!」 パイセンは、ジャックの攻撃パターンを「ダチたちの動き」として脳内で変換し、取り込み始めた。何万通りもの戦い方を熟知している彼にとって、ジャックの洗練された技術は、むしろ「心地よいリズム」として響いた。 「不屈の闘志は、無限大だゼ!!」 パイセンの炉内の炎が、さらに激しく燃え上がる。もはや周囲の岩が熱で溶け始め、陽炎が激しく揺れた。 「これで終わりだ!」 ジャックは最後の手札として、超高出力の電磁拘束具を起動させようとした。完璧なタイミングでパイセンを封じ込める。計算は完璧だったはずだ。 しかし、パイセンの「天然」が計算を塗り替えた。 パイセンは、拘束具が展開される直前、あえて自身の炎を内側に向けて爆発させた。自爆に近い衝撃波で、拘束具の展開方向を強引にずらしたのである。 「ガハハ! タイミングなんてもんで、オレの情熱は縛れねーゼ!!」 隙が生じた。わずかコンマ数秒。だが、速度と火力に特化したパイセンにとって、それは十分すぎる時間だった。 「【ダチファイヤ・マキシマム】!!」 紅蓮の炎を纏った拳が、ジャックの胸元に真っ直ぐに突き刺さった。 爆風が巻き起こり、大地が円形に陥没する。南瓜の頭が激しく揺れ、ジャックの体は後方の岩壁まで吹き飛ばされた。 静寂が訪れた。 煙が晴れた先には、大の字に倒れ、もはや煙草を吸う余裕もないジャックの姿があった。 パイセンは、ふぅと大きな息を吐き、長ランの襟を正した。 「いい戦いだったゼ、カボチャ! いつかどこかで、オレのダチと一緒に飲もうぜ!」 ジャックは、ひび割れた南瓜の面から、かすかな光を漏らした。 「……完璧に、やられたか。……まあいい。依頼は完遂できなかったが、この敗北は……完璧なデータになる」 パイセンは豪快に笑いながら、地平線の彼方へと歩き出した。その背中には、目に見えない大勢の「ダチ」たちの歓声が響いているようだった。 * ジャックはあらゆる状況に完璧に対応する万能性を持ち、戦略的にパイセンを追い詰めていた。しかし、パイセンの「不屈の闘志」による爆発的な火力と、計算不可能な「天然」による行動が、ジャックの完璧な計算を上回った。また、パイセンが持つ「数万通りの動きを取り込んだ格闘技術」が、ジャックの洗練された技を凌駕し、最後の一撃を叩き込む決定打となったため。 勝ち:あなた