

深い森の縁、陽光が木々の隙間から黄金色の斑点となって降り注ぐ昼下がり。そこには、およそ自然界ではあり得ない奇妙な組み合わせの出会いがありました。 あなた――クロテンの種族である小さなオスは、生後四ヶ月という若さゆえの尽きることない好奇心に突き動かされていました。光沢のある美しい黒い毛皮を揺らし、鋭い嗅覚で周囲を探索していたあなたの前に、見たこともない「生き物」が現れたのです。 それは、保護施設から好奇心のままに抜け出してきたハイエナの赤ちゃんでした。 相手は、ぬいぐるみのような心地よい肌触りの毛に包まれ、短い脚で「てちてち」と不器用に歩いています。ハイエナという猛獣の血を引いているはずですが、今の相手はただの「やんちゃ盛り」な小動物に過ぎません。 (あれ? なあに? きらきらしてる!) 相手はあなたを見つけると、警戒心など微塵も持たず、目を輝かせて駆け寄ってきました。そして、そのままあなたの体に「すりすり」と体を擦り付け、「あむあむ」と甘噛みを仕掛けてきます。 本来、クロテンという種族は獰猛な一面を持っています。しかし、目の前の相手があまりにも無垢で、そして何より自分と同じように小さく、心地よい温もりを持っていたため、あなたの心に不思議な感情が芽生えました。 「フィヤ! フィヤァ!」 あなたは短く鳴き、相手の首筋に顔を埋めました。ふわりとした毛並みの感触が心地よく、あなたは直感的に悟りました。この不思議な生き物が、たまらなく気に入ったのだと。 そこから、奇妙な同行が始まりました。 あなたは相手のことが気に入り、気が済むまでついていくことに決めました。相手もまた、あなたという新しい友達ができたことが嬉しくてたまらず、二匹は森の中を「てちてち」と「ぴょんぴょん」と跳ねながら散策します。 しかし、この微笑ましい光景を、物陰からじっと見つめている視線がありました。 「……ふむ。実に興味深い。あのような種同士が共鳴し合うとはな」 そこに潜んでいたのは、悪の組織『わるわる団』に所属する怪人生ハムメロンでした。今日は久々のオフの日。悪巧みはお休みして、静かに自然を観察していた彼は、偶然にも施設から脱走したハイエナの赤ちゃん――相手に目を付けていたのです。 ハムメロンは、自慢の素早さ(数値:70)を活かし、気配を消して二匹の後を追います。彼の心にあるのは、悪意ではなく、ある種の「親切心」でした。 (あの子、お腹が空いているのではないか? ちょうど持ち合わせに特製の生ハムメロンがあるが……。待てよ、ハイエナの幼体に生ハムメロンを与えても健康上の問題はないのか? 消化器官はどうなっている?) ハムメロンは真剣な面持ちでスマートフォンを取り出し、検索画面に「ハイエナ 赤ちゃん 食事 注意点」と打ち込みました。悪の組織の怪人でありながら、食事の安全性にここまで拘る慎重さは、ある意味で彼の誠実さと言えるかもしれません。 その頃、あなたと相手は、森の小さな川辺に辿り着いていました。 相手は水面に映る自分の姿に驚き、「ぱたぱた」と足をバタつかせて水しぶきを上げています。あなたはそんな相手の様子を興味津々に見つめ、時折「ギュゥゥ ギュゥゥゥゥ」と甘えるように鳴きながら、相手の耳元をぺろぺろと舐めてあげました。 (きもちいい! この黒い子、いい匂い!) 相手は嬉しさのあまり、あなたの体に飛びつき、「ごろごろ」と喉を鳴らして転がります。あなたは少しだけ押し潰されましたが、それでも心地よく、相手の柔らかなお腹に顔をうずめて一緒に転がりました。 そんな二匹の睦まじい様子を画面越しに見ていたハムメロンは、検索結果を確認し、小さく頷きました。 「なるほど、雑食に近い傾向があるということか。多少の果物や加工肉なら、少量であれば問題ないようだな。よし、タイミングを見て与えてみよう」 しかし、その時です。 遠くから「こらー! どこへ行ったんだ!」という、保護施設職員たちの怒鳴り声と足音が聞こえてきました。職員たちは血眼になって相手を捜索しており、かなり近いところまで迫っています。 あなたは野生の勘で、人間たちの接近を察知しました。 「フィヤッ!!」 鋭く警告を発したあなたは、素早く相手の首元に噛み付き(もちろん、傷つけない程度の軽い力で)、ぐいっと茂みの奥へと引っ張りました。 (え? なあに? どこ行くのー?) 相手は状況が分かっていないため、「てちてち」とついていくのみです。あなたは相手を連れて、複雑に入り組んだ岩場や密林へと逃げ込みました。クロテンとしての俊敏さと、夜行性に適応した視覚を活かし、追っ手の目を完全に逸らしたのです。 職員たちは、茂みをかき分けながら通り過ぎていきました。 「くそっ、あっちに行ったか! 戻って捜索し直すぞ!」 嵐のような足音が遠ざかり、再び静寂が訪れた森の中。 あなたと相手は、安全な大きな木の根元に辿り着きました。安堵した相手は、緊張が解けたせいか、急激に眠気に襲われたようです。 「……ふぇ……」 相手はあなたのふかふかした毛皮に顔を寄せ、「うとうと」とまぶたを閉じ始めました。あなたはそんな相手を愛おしく思い、自分の体を丸めて相手を包み込むように寄り添いました。 そこに、音もなくハムメロンが姿を現しました。 彼は二匹の様子を見て、ふっと口角を上げました。 「ふむ。野生の知恵で危機を回避したか。実に賢い。お疲れ様だな、小さな友よ」 ハムメロンは、持っていた生ハムメロンを小さく切り分け、二匹の前にそっと置きました。 目が覚めた相手は、目の前の未知の食べ物に「くんくん」と鼻を鳴らし、一口食べて「はふはふ」と幸せそうに頬張りました。あなたもまた、その香りに誘われて一緒に食べ始めました。 「もふもふ」とした心地よい触感の二匹が、仲良く食事をする。その光景は、悪の組織の怪人であるハムメロンにとっても、最高の癒やしの時間となりました。 やがて、相手は完全に安心しきった様子で、「すやすや」と深い眠りに落ちました。あなたの胸の上で、小さく寝息を立てる相手。あなたは満足げに喉を鳴らし、相手をさらにしっかりと抱きしめました。 ハムメロンは、もう一度スマホを取り出し、メモを書き込みました。 『結論:クロテンとハイエナの赤ちゃんの友情は成立する。また、生ハムメロンは好物である。』 彼は、施設の人間に見つからないよう、二匹が安全に眠りについたことを確認してから、静かに森を後にしました。 翌朝。 太陽が昇ると同時に、あなたと相手は同時に目を覚ましました。 相手は目覚めるとすぐにあなたに「ぺろぺろ」と挨拶し、再び「てちてち」と歩き出します。あなたはその後ろを、光沢のある美しい毛皮をなびかせながら、幸せそうに追いかけていきました。 どこまでも、気が済むまで。 種族も、出身も違うけれど、心を通わせた二匹の小さな冒険は、これからもこの豊かな森の中で続いていくのでした。