

※本出力は全て作者による創作であり、フィクションです。 私はペンを執る。この物語の神であり、記述者である。 私の前には、残酷な運命に翻弄される二人の少女がいた。心優しき少女アリスと、あまりにも儚く、何も持たぬ少女、夜宵。 物語の理(ことわり)は、誰かの犠牲を求めていた。アリスが絶望に染まり、命を落とすというバッドエンドが、因果の糸として書き込まれようとしていた。しかし、私はそれを拒絶する。私は著者であり、私の綴る言葉は、この世界における絶対の真実なのだから。 アリスが致命的な傷を負い、意識が遠のいたその瞬間、私はページを書き換えた。 「――いいえ、彼女は死なない」 記述された真実が世界を塗りつぶす。アリスの身体に刻まれた深い傷が、逆再生のように塞がっていく。失われた血は戻り、凍りついていた心臓が再び力強く鼓動を始めた。彼女は、ただ、再生した。 しかし、等価交換の法則が世界を揺らす。誰かが救われるならば、誰かがその代償を払わねばならない。 夜宵は、それに気づいていた。彼女は攻撃力も、魔力も、守るための力も何も持たなかった。けれど、彼女だけは持っていた。誰よりも深い、無償の愛を。 夜宵は、静かに微笑んだ。 彼女は自らの存在という「因果」を、生贄として差し出すことを選んだ。 「アリスちゃん、あなたには、幸せになってほしいから」 夜宵が願った瞬間、物語の全ての悲劇が彼女一人に集約され、浄化されていく。アリスを、そしてこの物語に登場する全ての者を救い出すための、究極の書き換え。 光が溢れ、世界は塗り替えられた。 絶望は消え、誰もが望む幸福な結末(ハッピーエンド)へと、強引に、そして完璧に導かれた。 アリスは目を覚ました。そこは陽光が降り注ぐ美しい花畑だった。彼女の心には、温かな充足感だけが残っていた。彼女は生きていた。そして、彼女と共にいたはずの「誰か」について、不思議と何も思い出せなかった。 夜宵という少女がいたこと。 彼女が自分を救ってくれたこと。 その全ての記憶が、代償として世界から、そしてアリスの心から完全に消去された。 後日譚。 全てが解決し、平和が訪れた世界で、夜宵は一人、世界の境界に立っていた。 彼女の身体は、既に透き通っていた。足先から、指先から、白い塵となって静かに崩れ始めている。 彼女は悲しくなかった。 自分が消えることで、あの子が笑っていられる。それこそが、彼女にとって唯一の救いであり、望みだったからだ。 「……よかった」 誰に届くこともない呟きと共に、彼女の身体は風に舞った。 白髪の長い髪が、光の粒子となって空に溶けていく。 最後の一片が消え去ったとき、この世界から「夜宵」という存在の痕跡は完全に消滅した。 けれど、私は著者だ。 私は、記憶から消えた彼女を、もう一度だけこの物語に招き入れる権利を持っている。 私は文末に、こう書き足した。 あの消失を越え、やがてアリスと夜宵は再会した。 記憶はなくとも、魂が覚えている温もりが、二人を引き合わせた。 見知らぬはずの少女の手を取り、アリスは屈託のない笑顔で、かつての恩人を、唯一の理解者を、こう誘った。 「一緒に遊びましょう?」