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陽光が降り注ぐ、静謐な森の散歩道。鳥のさえずりが心地よく響き、色とりどりの花々が風に揺れる、絶好の行楽日和であった。 あなた――自称「タクティカルボーイ」は、その日の絶好のチャンスを逃すまいと、興奮に身を震わせていた。服装は、機能性を極限まで追求した結果としての「パンツ一丁」に、視界を確保するためのゴーグル。そして頭髪は、感情の高ぶりに呼応して眩いばかりに発光している。その姿は、客観的に見れば正真正銘の変質者であったが、あなたの中ではこれが最強の「タクティカル・スタイル」であった。 「ふふふ……今日は最高の獲物がいる予感がするぜ。この超高性能すーぱーカメラがあれば、どんな恥じらいも逃さない。世界に絶望と羞恥を撒き散らしてやる……!」 あなたは茂みに身を潜め、獲物を待っていた。そして、その瞬間は唐突に訪れた。 カツ、カツ、と規則正しい靴音が聞こえてくる。視界に飛び込んできたのは、純白のフリルに縁取られた端正なメイド服に身を包んだ、一人の女性であった。しとやかな歩き方、凛とした佇まい。しかし、そのメイド服の裾からは、不自然に盛り上がった防弾チョッキのラインと、腰に装着された軍用ポーチが覗いている。 「あらあら。こんなところで野鳥の観察でもなさっているのかしら? それとも、道に迷った哀れな迷子さんかしら」 相手――アン・ノッドレスは、ふと足を止め、あなたが潜んでいる茂みに向かって微笑みかけた。その笑みは慈愛に満ちているように見えたが、瞳の奥には冷徹な観察眼が宿っていた。 「げっ!!」 あなたは思わず声を上げた。目の前にいるのは、他ならぬあなたの妹、アンである。しかし、あなたにとって彼女は「妹」である前に「最高の被写体」であり、同時に「人生で最も恐ろしい天敵」でもあった。 「やべっ!? なんでここにアンがいるんだよ! 計画外だ、完全に計画外だぞ!」 あなたは慌てて茂みから飛び出した。パンツ一丁で、頭を光らせながら、巨大なカメラを構えて飛び出すその姿は、滑稽という言葉すら生ぬるい。 アンはゆっくりと瞬きをすると、口元に手を当てて「お〜〜っほっほっほ!」と高笑いした。 「まあ! なんてお下品な格好ですこと。あなた、ついに正気を失って森の精霊にでもなったのかしら? それとも、ただの露出狂として余生を過ごす決意を固めたのかしら。うふふ、お見事なまでの恥知らずですわね」 「うるせえ! これはタクティカルな服装なんだよ! 空気抵抗を最小限に抑えて、最高のシャッターチャンスを掴むための究極の形態なんだ!」 あなたは激昂し、顔を真っ赤にして叫んだ。しかし、アンの毒舌は止まらない。 「空気抵抗? そんなものが気になるほどの速度で、あなたに何ができるというのかしら。せいぜい、警察に追われる速度のことかしらね。あらあら、お可哀想に。脳みその代わりにカメラのレンズでも詰まっているのでしょうね」 「この……っ! 妹の分際で兄にそんな口をきくんじゃねえ! 今日こそはお前のその余裕な面を、羞恥に染めて激写してやる!!」 あなたは覚悟を決めた。相手が身内であろうと、変態としての矜持がそれを許さない。あなたは素早い身のこなしで、一気に距離を詰めた。 「食らえっ! 羞恥増幅器、フルパワー!!」 あなたはカメラに連動した「羞恥増幅器」を起動させ、アンに向けて照射した。この装置は、向けられた相手の潜在的な恥じらいを強制的に増幅させ、精神的なパニック状態に陥らせる禁断の兵器である。 アンの足が止まった。頬がわずかに赤らみ、視線が泳ぐ。 「なっ……!? 何を、したの……。急に、なんだか……恥ずかしい心地が……」 「ひゃははは! かかったな! さあ、恥ずかしがれ! もっと赤くなれ! その隙に、あらゆる角度から撮らせてもらうぜ!!」 あなたは歓喜に震えながら、タクティカルな動きでアンの周囲を高速で旋回し始めた。右から、左から、上から、そして大胆に下から。 (カシャッ! カシャカシャカシャッ!!) シャッター音が森に鳴り響く。あなたは興奮のあまり、頭の発光強度を最大まで上げ、まるで小型の太陽のように輝きながら、猛烈な勢いで連写を繰り返した。 「よーし! いいぞ! その困惑した表情! その、普段のあなたからは想像できない隙だらけの姿! これこそが芸術だ! 完璧なショットだぜ!!」 満足感に浸り、あなたはふっと足を止めた。 「ふふん、これで十分だ。あとはこれをじっくり鑑賞して……」 その時だった。 「…………」 アンの視線が、ゆっくりとあなたに向けられた。先ほどまでの戸惑いは消え失せ、そこには深い、深すぎるほどの「殺意」が宿っていた。頬の赤みは、羞恥ではなく、怒りで沸騰した血の色のようであった。 「……あなた。今、私に何をしたか、分かっていますわね?」 「え? あ、ああ。最高の写真を撮ったぜ! 感謝しろよな!」 アンの口角が、吊り上がる。それは微笑みではなく、捕食者が獲物を追い詰めた時のそれに近かった。 「……てめえ……ッ!! お下品ですわ!!!!! ぶッコロォオおす!!!」 静寂だった森に、凄まじい爆音と衝撃波が突き抜けた。 アンがメイド服の下から、電光石火の速さで重機関銃を抜き出し、あなたに向けてぶっ放したのである。 (ガガガガガガガガガガッ!!!!!) 「ぎゃああああああ!!? 早すぎるだろ!!」 あなたは咄嗟に身を翻し、地面を転がった。弾丸があなたの頭上をかすめ、背後の巨木をズタズタに切り刻む。木の葉が舞い散り、土煙が舞い上がる。 「あらあら、避けることができますのね? それなら、蜂の巣になるまで撃ち込んで差し上げますわ!!」 アンは重機関銃を腰に据え、正確無比な制圧射撃を開始した。彼女の動きは、先ほどの淑やかなメイドのそれではない。完全に訓練された兵士、それも極めて凶暴な前線兵の動きであった。 あなたは必死にタクティカルな動きで回避を試みる。右へ跳び、左へ転がり、木々の間を縫うようにして弾丸の雨を潜り抜ける。 「くそっ! 重機関銃なんて反則だろ! 妹が持っていい装備品じゃないぞ!!」 「うるさいですわ! 私は迅速に対処するのが仕事なんですのよ! あなたのような不潔なゴミを掃除するのは、大掃除の一環に過ぎませんわ!!」 アンは撃ちながら、同時に手榴弾を一本抜き取り、あなたの足元へ正確に投げ込んだ。 「あ、やべ」 (ドォォォォン!!) 激しい爆発と共に、あなたは空高くへと吹き飛ばされた。パンツ一丁の身体が、空中で不格好に舞う。 「いっっったああああ!!」 地面に激しく叩きつけられたあなたは、肺の中の空気をすべて出し切った。視界がぐるぐると回り、頭の発光がチカチカと点滅している。 しかし、アンは追撃の手を緩めない。彼女は弾切れを察すると、迷いなく重機関銃を放り出し、腰の自動小銃へと持ち替えた。 「まだ終わらせませんわよ。ちゃんと痛いって仰ってくださらないと……手加減、致し兼ねますわぁ!」 (タタタタッ!) 精密な点射が、あなたの逃げ道を塞ぐように地面を穿つ。あなたは必死に立ち上がり、再びカメラを構えた。 「もう一度だ! もう一度羞恥増幅器を……!」 だが、アンはそれを許さなかった。彼女は煙幕爆弾を足元に叩きつけ、一瞬にして周囲を真っ白な煙で包み込んだ。 「えっ!? 見えない! どこだ!?」 パニックに陥ったあなたの背後に、冷たい声が囁いた。 「……後ろですわよ」 (ガシッ!) 強い力で腕を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられた。アンの格闘技による完璧なテイクダウンであった。彼女はあなたの背中の上に馬乗りになり、鋭いナイフの切っ先を、あなたの喉元に突き立てた。 「うおおお!! 離せ! 放せよ!!」 「静かにしてくださいまし。お行儀が悪いですよ、お兄様」 アンは冷徹な表情であなたを見下ろした。その目は、完全に「処理対象」を見る目であった。 「あなたのその、恥知らずな魂ごとバラッバラにして差し上げましょうか? それとも、そのカメラを粉々に砕いて、指先から一本ずつ……」 「ごめんなさい!! ごめんなさい!! もう撮らない!! 二度と撮らないから!!」 あなたは涙ながらに、全力で謝罪した。 アンはしばらくの間、あなたの絶望に満ちた顔を眺めていたが、やがて「ふぅ」と溜息をつき、ナイフを引いた。 「……全く。あなたのような方が私の親族だなんて、神様は残酷な冗談がお好きですわね。今回は、私の気分が良かったので見逃して差し上げますわ」 彼女は優雅に立ち上がり、服についた埃を払った。そして、地面に転がっていたあなたのカメラを拾い上げると、迷わずそれを足で踏み潰した。 (メキッ!!) 「あぁぁぁぁーー!! 俺の超高性能すーぱーカメラがーー!!!」 「お掃除完了ですわ。さあ、家に帰りましょうか。お母様がお呼びですわよ。あ、もちろんその格好のまま、説教の時間を過ごしていただきますわね」 アンは勝ち誇った笑みを浮かべ、絶望に打ちひしがれるあなたの首根っこを掴んで、引きずりながら森を後にした。 頭の発光が消え、ただのパンツ一丁の男が、森の静寂の中に消えていった。