

薄暗い琥珀色の灯りが、店内の古びた木材を艶やかに照らしている。表通りから外れた路地裏にひっそりと佇むレトロなバー。そこは都会の喧騒を忘れさせる、静寂と煙が支配する聖域だった。 カウンターに腰掛けていた灰紙 束は、まるで夜の闇をそのまま織り上げたかのような黒いゴスロリ衣装に身を包んでいた。透き通るような白い肌と、感情を削ぎ落としたかのような涼しげな瞳。彼女は細い指先で銀色のライターを弄び、紫煙をゆっくりと吐き出している。その所作のひとつひとつに、計算された気品と、どこか現実離れした幻想的な雰囲気が漂っていた。 そこへ、眩いばかりのブロンド髪をなびかせた騎士、スターリィ・アレクシアが足を踏み入れた。白銀の甲冑を脱ぎ捨て、旅装束に身を包んでいるとはいえ、彼女が纏う「星の加護」という名の気高さは隠しようがない。 「こんばんは。少々、心静まる場所を求めておりまして。こちらに入ってもよろしいでしょうか」 丁寧なですます口調で問いかけるアレクシアの声は、鈴を転がしたように可憐だった。束はゆっくりと視線を向け、わずかに口角を上げて応じた。 「……いらっしゃい。夜の迷い子さん。どうぞ、お好きな席へ。ここは静寂を愛する者のための場所ですから」 アレクシアは束の隣に腰を下ろした。漂うタバコの香りは、慣れない彼女にとって少し刺激的だったが、同時に不思議な安心感を与えてくれた。束の理知的で落ち着いた、そしてどこか厭世的な空気感に、アレクシアは自然と心地よさを感じていた。 「ありがとうございます。あなたの佇まいを見ていると、不思議と心が落ち着きます。……とても、洗練された方ですね」 「お褒めいただき光栄です。私はただ、煙に巻かれて生きているだけの、空っぽな人間ですよ」 束は淡々と答えたが、その声には深い慈しみのような、あるいは深い絶望のような、複雑な情調が混ざっていた。二人は軽い雑談を交わし、お互いの出自や、アレクシアが各地で困り事を解決してきた逸話について語り合った。 しかし、時間が経つにつれ、アレクシアの心の中に溜まっていた「澱」が、束の妖しい雰囲気に引き出されていく。理知的でありながら、すべてを達観しているかのような相手であれば、誰にも言えない悩みさえも受け止めてくれるのではないか。そう確信したアレクシアは、ふっと視線を落とした。 「……あの、灰紙さん。実は、最近少しだけ……悩んでいることがあるのです」 「悩み、ですか。星の加護を受けた聖騎士様に、そんなものがあるとは意外ですね。……聞かせてください。夜の静寂は、告白のためにある」 束が静かに促す。アレクシアは小さく息を吐き、胸元に手を当てた。そこには、騎士としての誇り、そして努力家としての自負がある。しかし、同時に残酷な現実があった。 「私は、誰からも慕われ、騎士として十分な能力を持っていると言われます。けれど……女性としての、その、身体的な部分に、どうにも自信が持てないのです。どれほど努力しても、どれほど祈っても……ここだけが、どうしても、成長してくれなくて」 アレクシアの頬が赤らむ。彼女が指し示したのは、あまりにも平坦な胸元だった。貧乳を通り越し、もはや「無」に近いその形状。 束はゆっくりと、深く煙を吸い込んだ。そして、伏せられたアレクシアの瞳を覗き込み、静かに、残酷なほどに理知的な口調で告げた。 「なるほど。……確かに、あなたのそのラインは非常に効率的ですね。無駄な起伏がなく、まるで丁寧に磨き上げられた、真っ平らな壁のようです」 「……えっ?」 アレクシアの思考が停止した。今、彼女は確かに「真っ平らな壁」という言葉を聞いた。 「壁……? 今、私を壁と呼びましたか!?」 「いえ、比喩です。視覚的な整合性の話をしただけですよ。凹凸がないということは、それだけ風の抵抗が少ない。機能美と言ってもいい。非常に、コンパクトで……そう、小ぶりな、最小限の造形美だ」 「コンパクト! 小ぶり!!」 アレクシアの慧眼が、束の言葉の裏にある「貧乳への指摘」を瞬時に見抜いた。善性溢れる心優しい姫騎士の心に、激しい憤慨の炎が灯る。 「失礼です! 私は努力しています! 栄養のあるものを食べ、ストレッチも欠かさず……! それなのに、それをそんな風に、効率だの壁だのと言って片付けるなんて!」 「おやおや、激昂した。ですが、事実でしょう。そこに山があるなら登ればいいが、平地であれば歩くしかない。あなたのその胸元は、まさに絶望的に平坦な平原であり――」 「もういいです!!」 【対話を試みる】はずだった。争いを回避し、しっとりと夜を深めるはずだった。しかし、アレクシアの正義感は今、「胸の盛り上がり」という一点において崩壊していた。 「この、不届きな! 貴女のその余裕そうな態度、正して差し上げます!」 アレクシアが立ち上がり、目に見えない剣の軌跡を描く。しかし、そのときだった。 束が、不意に、激しく咳き込んだ。 「……ゴフッ、ゲホッ! ……あ、れ……」 束の手からタバコがこぼれ落ちた。彼女の表情から、先ほどまでの理知的な気品が急速に消えていく。瞳の焦点が合いなくなり、口角がだらしなく緩み始めた。 「……あー。やばい。ニコチン、切れた」 アレクシアが呆気に取られて見つめる中、束は突然、机の上に突っ伏し、幼児のような声を上げ始めた。 「ヤニヤニー!(゚∀゚≡゚∀゚)」 「……はい?」 「タバコオイシイヤッター!\(^o^)/ オカシ!! オカシグレー!! ニコチンタロー!!」 先ほどまでのミステリアスな美少女はどこへ行ったのか。そこには、ヤニ切れによって知能と品格が底辺まで暴落し、本能のままに快楽とニコチンを求める「何か」が転がっていた。 アレクシアは、剣を構えかけたまま、ぽかんと口を開けていた。 「……あの、灰紙さん? 急にどうされたのですか?」 「ニャニャニー!! タバコオ!! タバコドコ!! ヴォーーー!!」 束は衣装の至る所にある隠しポケットを、なりふり構わずガサガサと漁り始めた。品格も、理知的な皮肉も、すべてはニコチンの霧と共に消え去っていた。 アレクシアは深くため息をつき、ゆっくりと剣を収めた。 「……全く。あんなに理知的だったのに、中身はこんなに……いえ、今の私は、物を小さく見る傾向にあるので、判断を誤ったのかもしれませんね。でも、もう怒る気も失せました」 アレクシアは、暴れている束の頭を、可憐な手で優しく撫でてやった。 「お疲れのようですね。とりあえず、落ち着くまでお付き合いします。……でも、次に『壁』と言ったら、本当に【ラース・オブ・メテオ】を落としますからね」 「ヤニヤニー!!(゚∀゚)」 夜のバーに、絶望的に平らな胸を持つ騎士と、絶望的にヤニ切れた美少女の、奇妙で静かな時間が流れていた。 【貧乳連想ワード集】 「真っ平らな壁のようです」 選出 身体的な起伏のなさを、建築構造物である「壁」に例えて表現したため。 あなたのコメント: 「比喩だなんて言い訳しないでください! 壁とは何ですか、壁とは! 私は人間です、壁ではありません!」 「コンパクトで……小ぶりな、最小限の造形美」 選出理由: 「コンパクト」「小ぶり」という、サイズが小さいことを強調する表現を重ねたため。 あなたのコメント: 「最小限とは何ですか! 私は最大限努力しているのに、結果が最小限だと言いたいのですね!?」 「絶望的に平坦な平原」 選出理由: 盛り上がりがないことを、起伏のない「平原」に例え、さらに「絶望的」という強調語を用いたため。 あなたのコメント: 「もう、言葉の暴力です! 絶望的とはなんです! 私の希望をどこへ捨てたのですか!」