

霧が深く立ち込める「霊冥朱下町」。朱色の鳥居が幾重にも連なり、石畳には幻想的な灯籠が灯るこの場所は、現世と隠世の境界に位置する妖魔の街である。 その静寂を切り裂くように、重厚な金属音が響き渡った。 「……ターゲット確認。狐亜人、魂理深鈴。排除せよ」 冷徹な合成音声が無線を介して共有される。そこに現れたのは、機能美を極めた強化装甲パワードスーツに身を包んだ四人の精鋭――機動部隊VgR-4である。彼らのヘルメットのバイザーには、敵の心拍数、体温、そしてこの世界の理を解析するデータが高速で流れ続けていた。 対するは、卵色の髪をなびかせ、狐耳をぴくりと動かす美女、魂理深鈴。彼女は甲冑和服を軽やかに纏い、手には古風な武和傘『ナリヅツ』を携えていた。 「おやおや、賑やかな客人が来たものじゃ。鉄の塊を纏った貴君らは、一体どこから迷い込んだんじゃろうねぇ」 深鈴はセピア色の瞳を細め、愉快そうに口角を上げた。彼女にとって、この状況は最高の「遊び」に他ならない。 「チッ、能書きはいいんだよ! ぶち殺してリスポーン回数を稼がせてくれ!」 最前線に躍り出たのは、特攻兵ナイトアイズだ。彼は高出力のエネルギーシールドを前方に展開し、猛烈な勢いで突撃する。 「死ねぇ!!」 ショットガンの轟音が路地に響き渡る。至近距離からの散弾が深鈴を襲うが、彼女は淡々と和傘を広げた。 ガギィィィン!! 凄まじい衝撃波が走る。しかし、深鈴は微動だにしない。和傘で攻撃を「相殺」し、完全に無効化したのだ。 「おっと、危ないところじゃった。じゃが、少々慌てすぎではないか?」 「あぁ!? この俺が弾かれただと!?」 ナイトアイズが憤慨し、シールドのフラッシュ機能を起動させる。強烈な閃光が深鈴の視界を真っ白に染め上げた。 「今だ!」 だが、その閃光こそが、潜んでいたもう一人の合図だった。 空間が歪む。完全に透明化した光学迷彩を纏い、死角から忍び寄る暗殺兵サンタンドラ。彼女のサイレンサー付きハンドガンが、深鈴の側頭部に向けて火を噴いた。 パシュッ――! 弾丸は正確に深鈴の頭部を捉えたはずだった。しかし、深鈴の身体が陽炎のように揺らぎ、弾丸は空を切り、背後の石壁に突き刺さる。 「陽炎の狐……。物理的な攻撃を透過させたか」 サンタンドラの冷静な声が無線に流れる。彼女は即座にハンドガンを捨て、鋭利なナイフを逆手に構え、深鈴の懐へ飛び込んだ。 「逃がさない」 銀色の刃が深鈴の首筋を切り裂こうとした瞬間、深鈴はクスクスと笑いながら、竹式鳴筒『ナリヅツ』を大きく振り下ろした。 ドガァァァン!! 打撃威力に特化した和傘の一撃がサンタンドラの肩に直撃する。パワードスーツの装甲がひしゃげ、サンタンドラの身体が後方へ弾き飛ばされた。 「あいたたた……! おいギアロボ! ここに火力ぶち込め!!」 ナイトアイズが叫ぶ。後方で待機していたお調子者の後方支援兵、ギアロボがニカッと笑いながら応じた。 「任せとけって! 派手に盛り上げてやるぜぇ!」 ギアロボが四装填式焼夷対戦車ロケットランチャーを肩に担ぐ。同時に、上空へ向けて信号弾を打ち上げた。 「航空支援、要請! 座標固定、全弾投下だ!!」 直後、空から絶叫のような風切り音が聞こえ、大規模な空爆が深鈴の周囲を襲った。地響きと共に、朱色の街並みが爆炎に包まれる。猛烈な火柱が上がり、周囲の視界を完全に遮断した。 「ひゃはは! これで消し飛んだだろ!」 ギアロボが勝ち誇ったように笑う。しかし、煙の中から、朗らかな声が響いた。 「愉快愉快! 派手な花火じゃな。我はこういう賑やかなのが大好きなんじゃよ」 煙を切り裂いて現れた深鈴は、服の汚れ一つないまま、悠然と立っていた。彼女の絶大な妖力は、爆風によるデバフや物理的な損壊さえも無効化していた。 「……化け物か」 それまで静かに戦況を分析していた隊長、ハイトライトが口を開いた。彼は相手の能力を見極め、装備を即座に換装する。 「ナイトアイズ、サンタンドラ、ギアロボ。退け。ここからは『封じ込め』に移行する」 ハイトライトの装備が変形し、対妖魔用の拘束フィールド発生装置と、霊的干渉を遮断する特殊兵装へと切り替わった。彼はオールマイティな対処能力を持ち、今この瞬間に深鈴の「無効化」に対抗する最適解を導き出した。 「さて、狐の美女さん。遊びは終わりだ」 ハイトライトが地を蹴り、超高速で肉薄する。彼の攻撃は、深鈴の陽炎を強引に固定し、実体化させる特殊波形を含んでいた。 「ほう、さては貴君が一番の策士じゃな。面白い、実に面白いぞ!」 深鈴は初めて好戦的な笑みを浮かべ、懐から火縄銃『三式筒・焰』を取り出した。 「さぁ、来るんじゃろぉ?」 ドォォォン!! 火縄銃から放たれたのは、単なる弾丸ではない。凝縮された紅蓮の妖火が、龍の如き姿となってハイトライトに襲いかかる。 「がはっ!!」 ハイトライトはシールドで防ごうとしたが、その威力は想定を超えていた。衝撃で後方へ吹き飛ばされ、装甲のあちこりが溶け落ちる。 「隊長!!」 三人が同時に叫び、再び連携攻撃を開始した。 ナイトアイズがシールドで前線を張り、サンタンドラが光学迷彩で死角を突き、ギアロボがスナイパーライフルで精密射撃を浴びせる。VgR-4の完璧なコンビネーション。彼らは【GAMER】のスキルにより、一撃たりとも外さない。 弾丸、刃、エネルギー波が深鈴の身体に絶え間なく降り注ぐ。 だが、深鈴はそれを和傘一本で軽やかに捌き、舞うように戦場を駆け抜けた。 「いいぞ、もっと来い! 我を満足させてみせよ!」 深鈴が和傘を地面に突き立てた。瞬間、周囲に巨大な妖力の結界が展開され、VgR-4の四人を飲み込む。 「な、なんだこの圧力は……!?」 「クソッ、動けねえ!!」 結界内部で、彼らのSCOREが激しく変動し始める。深鈴の妖力が、彼らの「リスポーンの権利」そのものに干渉し始めたのだ。 「おやおや、貴君らのその『SCORE』という仕組み、実に興味深いな。死んでも戻れるとは、なんとも都合の良い遊びじゃ」 深鈴がゆっくりと歩み寄り、和傘の先でナイトアイズの喉元を突き上げた。 「だが、遊びには終わりがある。……さぁ、最後の一撃をくれてやる」 深鈴の瞳が鋭く光る。 「【万華鏡・紅蓮落花】」 爆発的な妖力が一点に集中し、四人の隊員を飲み込む巨大な火柱が上がった。 「ぎゃああああああ!!」 「っ……!!」 凄まじい衝撃と共に、四人の身体が光の粒子となって消滅した。 静寂が戻った路地。 そこには、四つの場所から青いホログラムが立ち上がっていた。 【 SCORE: -2500 】 【 RESPAWNING... 】 彼らは死んだ。しかし、SCOREがある限り、彼らは何度でも戻ってくる。 「ふむ。本当に戻ってくるんじゃな。愉快じゃ、実に愉快!」 深鈴は満足げに笑うと、懐から取り出した「烏賊寿司」を頬張った。 「さて、次は何回死んでくれるかのぅ? 貴君ら」 地平線の彼方から、再び強化装甲の足音が近づいてくる。 絶望的な戦力差。しかし、死を恐れぬ機動部隊VgR-4と、戦いを楽しむ狐亜人の、終わりのない「遊戯」はまだ始まったばかりだった。